当センター麻酔科は,昭和44年4月に大阪府立病院麻酔科として開設された。同年6月より手術・検査の全身麻酔のすべてを担当し,昭和44年中に1,100件,昭和45年には1,368件の麻酔を実施した。昭和50年5月,独立した当直制度により麻酔およびICUにおける集中治療を24時間体制とし,昭和54年には院内の急変患者に対する二次救命処置を行う心肺蘇生システムを整備した。これらの診療業務は,急性期医療の重要な柱としての麻酔科医の存在を確立し,平成15年の病院名称変更や平成19年4月の府立身体障害者福祉センター附属病院との統合以後も,病者を癒す医者として現場で診療する伝統を重んじつつ,全国から熱意ある人材を集めて,急性期からリハビリテーションまで一貫した高度な医療を提供する施設の麻酔・集中治療部門として積極的に活動している。麻酔と集中治療の良好な連携とバランスをとりながら,日本麻酔科学会および日本集中治療医学会の認定指導施設として,麻酔科医・集中治療医の育成にも努めている。
平成20年8月1日現在の麻酔科常勤医師は9名で,日本麻酔科学会麻酔科専門医は6名(うち日本麻酔科学会麻酔科指導医3名),日本集中治療医学会集中治療専門医は2名である。同日現在の後期研修医(レジデント)は5名で,初期研修医(スーパーローテイト)は3名が麻酔科で研修している。これに非常勤の麻酔科専門医1名(週3日勤務),障がい者歯科から週1日歯科麻酔の応援・指導にあたってくれる歯科麻酔専門医1名が加わり,皆の力をあわせて,手術室(12室)やICU(特定集中治療室6床)で日々の診療にあたりながら,研鑚に努めている。
全身麻酔(平成19年2,518件)のみならず,脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔などの区域麻酔(平成19年479件,全身麻酔への併用をあわせると1,171 件)も担当しており,平成19年の麻酔管理症例は合計3,004件であった。平成19年の心臓大血管手術は145件,開頭手術は147件,脊椎手術は146件など,症例はバラエティに富む。救命救急センターが施設内にあるため,緊急麻酔管理が多い(平成19年502件)のも特徴である。また,糖尿病,高血圧症,腎疾患,心疾患,中枢神経系疾患をはじめ,各種の合併症をもつ症例が豊富である。
平成19年のICU収容件数は621件で,心臓血管外科,外科,脳神経外科,整形外科などの外科系患者が94%を占め,surgical ICU の特徴を示したが,内科系の重症疾患37件にも対応した。平均滞在日数は3.48日(外科系3.19日,内科系8.05日)であった。平成19年のICUでの死亡は15例で,死亡率2.42%となる。ICU収容者の重症度はSAPS II (New Simplified Acute Physiology Score)を用いて評価している。平成19年のICU収容者の平均SAPS II スコアは28.7点であった。
また麻酔科スタッフには,日本救急医学会認定ICLS コースディレクター2名をはじめ,AHA認定BLS・ACLS プロバイダーなどの有資格者が複数おり,院内の急変患者に対する二次救命処置)と心肺蘇生法(BLS・ALS)教育を,救急診療科・心臓内科などとともに実施している。
初期研修2年の後,麻酔科学や集中治療医学を深く学ぼうと志す医師は,一般の全身麻酔や区域麻酔に加え,心臓血管・脳神経・呼吸器などの専門領域の麻酔や集中治療・疼痛治療をスタッフの指導の下で主体的に経験しながら幅広く症例を重ね,厚生労働大臣による麻酔科標榜許可を得るとともに,日本麻酔科学会の麻酔科認定医を申請する。麻酔科認定医取得後は引き続き,日本麻酔科学会および日本集中治療医学会の専門医資格認定に必要となる実務経験を重ねる。また,その過程で遭遇した問題の解決や知識の共有をめざす臨床研究や症例報告も大いに奨励される。
麻酔科医の需要が供給を大きく上回る現状は,当分の間は全国的に続く見込みで,麻酔科専門医や集中治療専門医となった後は,当センターはもとより全国各地の施設で,自分に適した条件で思う存分に活躍することができる。女性医師の増加に対応して,育児と医療への貢献の両立を支援する体制をとる施設も増えている。なお,麻酔科医の開業はペインクリニックのみという観が以前はあったが,最近は,全国各地の先駆者の努力が実り,手術のための麻酔でグループ開業あるいは単独開業する例が増えており,当センターの麻酔科スタッフ(麻酔科指導医)から手術麻酔で保険診療施設を開業した前例もある。
初期研修修了後,当センターレジデントとして,手術室およびICUにおいて,麻酔科学と集中治療医学を幅広く研修する。当センターでの研修期間は最大3年である。研修期間中には,臨床研究およびその成果の発表を奨励し指導している。当センターは日本麻酔科学会および日本集中治療医学会の両者の認定研修施設で,いずれの専門医認定に際しても有利である。
全国各地から優秀な人材を広く募り集めている当センター麻酔科は,大阪市内や大阪市近郊の複数の麻酔研修施設の連携で実力ある麻酔科専門医を育成する「麻酔総合研修システム in OSAKA」に参加しており,当センター麻酔科主任部長はその調整会議議長を務めている。この研修システムは,「大学病院連携型高度医療人養成推進事業(文部科学省)」の一環をなすが,参加者に特定の大学医局への入局を義務付けるものではない。
参加施設や研修内容,研修先調整などの詳細は「麻酔総合研修システム in OSAKA」ホームページ(http://www.choseikaigi.jp/)を参照されたい。なお,学術研究や教育を志す者には,大阪大学の大学院医学系研究科へ進学して教職につく道も開けている。
医療法の規定により,麻酔科を標榜する医師は厚生労働大臣の許可を受けねばならない。当センターは,「麻酔の実施に関して十分な修練を行うことのできる病院」として認められており,当センター麻酔科で2年以上修練した者は,申請して審査を受ければ厚生労働大臣から麻酔科標榜許可が与えられる。
第6条の6 前条第1項第2号の規定による診療科名は,医業及び歯科医業につき政令で定める診療科名並びに当該診療科名以外の診療科名であつて当該診療に従事する医師又は歯科医師が厚生労働大臣の許可を受けたものとする。
2 厚生労働大臣は,前項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは,医学医術に関する学術団体及び医道審議会の意見を聴かなければならない。
3 厚生労働大臣は,第1項の許可をするに当たつては,あらかじめ,医道審議会の意見を聴かなければならない。
4 第1項の規定による許可に係る診療科名を広告するときは,当該診療科名につき許可を受けた医師又は歯科医師の氏名を,併せて広告しなければならない。
第1条の10 法第6条の6第1項の規定による診療科名として麻酔科(麻酔の実施に係る診療科名をいう。以下同じ。)につき同項の許可を受けようとする医師は,次に掲げる事項を記載した申請書を厚生労働大臣に提出しなければならない。
一 申請者の氏名,住所,生年月日,略歴,医籍の登録番号及び医籍の登録年月日
二 申請者の従事先の名称,診療科名及び役職又は地位
三 次に掲げる麻酔の実施に係る業務(以下「麻酔業務」という。)に関する経歴
イ 麻酔業務を行つた期間
ロ 麻酔を実施した症例数
ハ 麻酔業務を行つた施設名
ニ 麻酔の実施に関して十分な指導を行うことのできる医師(以下「麻酔指導医」という。)の氏名
2 厚生労働大臣は,前項の申請書の提出があつた場合において,当該医師が次の各号のいずれかの基準を満たしていると認めるときは,法第6条の6第1項 の許可を与えるものとする。
一 医師免許を受けた後,麻酔の実施に関して十分な修練(麻酔指導医の実地の指導の下に専ら麻酔の実施に関する医業を行うことをいう。以下同じ。)を行うことのできる病院又は診療所において,二年以上修練をしたこと。
二 医師免許を受けた後,二年以上麻酔の業務に従事し,かつ,麻酔の実施を主に担当する医師として気管への挿管による全身麻酔を三百症例以上実施した経験を有していること。
3 厚生労働大臣は,前項の許可を与えるのに必要と認めるときには,当該医師に対し,当該医師が麻酔を実施した患者に関し,次の各号に掲げる書類の提出を求めることができる。
一 麻酔記録
二 手術記録
三 その他必要な書類
4 前項第1号の麻酔記録には,次に掲げる事項が記載されていなければならない。
一 麻酔を実施した医師の氏名
二 手術を行つた医師の氏名
三 患者の氏名等麻酔記録をそれぞれ識別できる情報
四 麻酔を実施した日
五 麻酔の実施を開始した時刻及び終了した時刻
六 麻酔の方法
七 行つた手術の術式
八 麻酔に使用した薬剤の名称及び量
九 血圧その他の患者の身体状況に関する記録
5 第3項第2号の手術記録には,次に掲げる事項が記載されていなければならない。
一 手術を行つた医師の氏名
二 患者の氏名等手術記録をそれぞれ識別できる情報
三 手術を行つた日
四 手術を開始した時刻及び終了した時刻
五 行つた手術の術式
六 病名
6 法第6条の6第1項の規定による診療科として麻酔科につき同項の許可を受けようとする医師は,第1項の申請書の提出に当たつて必要な場合には,当該医師が現に従事し,又は過去に従事していた病院又は診療所に対し,第3項各号に掲げる書類の提供を求めることができる。
当センターは,日本麻酔科学会の認定病院であり,当センター麻酔科には認定麻酔科指導医が常時勤務している。当センター麻酔科・ICUでの後期研修は,麻酔科専門医や麻酔科指導医の認定申請にあたって専従期間として算定できる。規定の詳細は日本麻酔科学会ホームページ(http://www.anesth.or.jp/)の「各種申請」の項を参照されたい。
*専従とは以下に掲げる業務に週3日以上携わっていることをいい,業務に従事する施設は複数にわたることができる。ただし,基礎的研究のみ従事している期間は除く。
(1) 周術期における麻酔管理に関する臨床または研究
(2) 疼痛管理に関する臨床または研究
(3) 集中治療部,救急施設等における重症患者の管理に関する臨床または研究
(4) 中央手術部業務
*2004年〜2013年の間に指導医認定を申請するときは,「指導医の指導のもとで」は「専門医の指導のもとで」と読み替える。
*専従とは以下に掲げる業務に週3日以上携わっていることをいい,業務に従事する施設は複数にわたることができる。ただし,基礎的研究のみ従事している期間は除く。
(1) 周術期における麻酔管理に関する臨床または研究
(2) 疼痛管理に関する臨床または研究
(3) 集中治療部,救急施設等における重症患者の管理に関する臨床または研究
(4) 中央手術部業務
当センターICUは,「有限責任中間法人日本集中治療医学会の認定する集中治療専門医研修施設」なので,後期研修期間を勤務経験(日本麻酔科学会麻酔科専門医取得者の場合は通算2年以上でよい)に算定できる。認定に関する詳細は,日本集中治療医学会の「集中治療専門医制度規則」(http://www.jsicm.org/rules/rule11.html)および「集中治療専門医制度施行細則」(http://www.jsicm.org/rules/rule12.html)を参照されたい。
第1条 有限責任中間法人日本集中治療医学会(以下,日本集中治療医学会)は,集中治療医学の進歩発展を促し会員の質を向上させ,もって国民の福祉に貢献することを目的として専門医制度を設ける。
第2条 この制度は日本集中治療医学会集中治療専門医制度と称する。
第7条 集中治療専門医の認定を得ようとするものは,次の各項に定める資格をすべて具備していなければならない。
第3条 集中治療専門医の認定を得ようとする者は,規則第7条に定める以外に,次の項目のいずれかを満たしていなければならない。
第4条 集中治療専門医認定審査は,書類審査と筆記試験による。
第8条 集中治療専門医の認定を得ようとするものは,集中治療専門医認定申請書の集中治療従事歴記載事項について,従事した施設ごとに病院長および集中治療施設責任者の証明を得なければならない。