病気の豆知識
心臓・血管
- 心不全(しんふぜん)
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心不全とはなんらかの心臓疾患によって心臓のポンプ機能が低下して、全身に十分な血液を送り出せなくなる状態をいいます。軽症の段階では安静時に症状は出ませ んが、体を動かすと動悸や息切れがしたり、呼吸困難がみられます。心不全の程度が強くなると、安静にしていても呼吸困難がおこります。また下肢のむくみをともなう事もあります。心臓から十分に血液が送り出せなくなると肺に血液がうっ滞し、咳・痰等の風邪によく似た症状をきたし、風邪と思われている場合も少なくないようです。また喘鳴をきたし(心臓喘息)気管支喘息と間違われる場合もあります。特に夜間寝床に入って数時間後に息苦しくなり目が覚めて、座ると呼吸が楽になる(起坐呼吸)場合は、早急に医療機関に受診することが大切です。
心不全の主な原因として、心筋梗塞、心筋症、弁膜疾患、高血圧心疾患などがあります。特に心筋梗塞は高齢化社会になるにつれて確実に増加してきています。
減分や水分を制限すること・お薬を規則正しく服用することは心不全治療の基本であります。心不全が急に悪くなり緊急入院しないようにするためには毎日体重を測り、感染予防(風邪をひかないように)に心掛けましょう。過度の体重増加(数日で2~3kg以上)をきたしたり、むくみがひどくなってきた場合は早急に医療機関に受診することが大切です。(心臓内科)
- 心筋症(しんきんしょう)
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心筋症とは、心臓の筋肉(心筋)自体の病気で心臓の働きが障害され、心不全症状を引き起こしたり、不整脈を合併して突然死につながったりすることもある病気です。心筋梗塞、心臓弁膜症や高血圧などの特定の原因によって発生する二次性心筋症と、原因不明の特発性心筋症の二つに分類されます。特発性心筋症は①肥大型心筋症;心筋の壁が厚くなり内腔が狭小化するもの、②拡張型心筋症;心筋の収縮力が低下し内腔が拡張するもの、③拘束型心筋症;心筋の壁進展性が低下する(硬くなる)もの、④不整脈原性右室心筋症;右心室の心臓の筋肉が脂肪や線維に置き換わるもの、に分類されます:
症状としては、息切れ・むくみなどの心不全症状、動悸・めまい・失神などの不整脈症状、胸部不快感・胸痛などがあります。また自覚症状はなく、健診などの心電図あるいは胸部単純写真から診断されることが少なくありません。診断は心エコーによりますが、より正確な診断をするためには心臓カテーテル検査を行い、心臓の筋肉組織を採取する心筋生検をすることもあります。24時間以上記録できる携帯型(ホルター)心電図や電気生理学的検査などによる不整脈の検査も重要です。
治療は心筋症の種類・症状によって異なりますが、薬物治療が基本です。これにもかかわらず重症かつ難治性心不全状態が続く拡張型心筋症には心臓移植や一部ではバチスタ手術のような心臓を縫い縮める手術などの外科治療を考慮しなければならない場合があります。また、重症心室性不整脈を認める場合は突然死の予防目的に植え込み型除細動器が必要になることもあります。(心臓内科)
- 心筋梗塞(しんきんこうそく)
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心筋梗塞とは、心臓の筋肉(心筋)に酸素・栄養を送っている冠動脈の動脈硬化巣が破裂して血の塊(血栓)ができて血管が閉塞することにより血液の流れが途絶え、その血管で養われていた流域の心筋が壊死に陥っていく状態です。症状出現後1週間以内の急性心筋梗塞、1週間~1カ月の亜急性心筋梗塞、1か月以上経過した陳旧性心筋梗塞に分類されます。同じく冠動脈の動脈硬化に基づく狭心症では心筋の壊死がなく、心臓本来の働きであるポンプ機能は正常に保たれているのに対し、心筋梗塞では心筋壊死によりポンプ機能が低下し、急性心筋梗塞は心原性ショックや致死性不整脈の原因となり、陳旧性心筋梗塞は慢性心不全の原因となります。
急性心筋梗塞の半数には前駆症状として狭心症がありますが、残りの半数は何の前触れもなしに突然発症します(死亡する方の約半数は院外での突然死です)。症状は狭心症の項目にも記載しておりますが、多くの場合胸部の激痛、締め付けられるような感じ、圧迫感として現れます。その症状は30分以上つづき(狭心症の場合は長くても10~15分以内)冷や汗を伴うことが多く、重症ではショックを呈します。胸痛の部位は前胸部が多いようですが、左季肋部(胃の辺り)・心窩部(みぞおち)が痛むこともまれではなく、胃潰瘍などの消化器疾患と間違われることもあります。
急性心筋梗塞の治療においては、一刻も早く閉塞した冠動脈を再開通(再灌流療法;日本では一般的には経皮的冠動脈形成術による)させ、心筋壊死の範囲を狭くすることが第一です。その再灌流療法の効果は症状出現後24時間以内で期待することができますが、早期(発症数~6時間以内)の方がより効果を発揮することができます。よって、高脂血症・高血圧・糖尿病・喫煙・肥満・運動不足・精神的ストレスなどの冠危険因子(動脈硬化を進行させる因子)を有する患者様で上記のような症状が出現した際には我慢せずにすぐに医療機関に受診することが重要です。(心臓内科)
- 狭心症(きょうしんしょう)
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狭心症とは、動脈硬化により冠状動脈(心臓に酸素・栄養を送っている)という血管が狭くなること(狭窄)で血液の流れが悪くなり生じます。運動時など多くの酸素が必要になるとき心臓の筋肉が酸素不足(虚血)になり胸痛を生じるようになります。この痛みは運動を止めてしばらく休んでいると消失するのが特徴で労作性狭心症と呼ばれています。また狭心症の症状は運動時ばかりではなく安静時にも現れることがあります。特に夜間や早朝に血管がけいれんを起こして狭心症状が起きるもので冠動脈れん縮性狭心症と呼ばれています。
(1) どんな症状か?:
狭心症の症状は、胸が締め付けられるように痛い・胸を押さえつけられるように痛い・胸の奥が痛いなどが典型的ですが、左肩から腕にかけての重だるい感じ・のどが絞めつけられる感じを伴う場合もあります。一方、胸部症状がなく胸部以外の症状のみ(左あご・奥歯が痛くなる)の場合もあります。(2) 胸が痛む範囲は?:
狭心症で胸が痛む範囲は通常広いので、患者様のパフォーマンス的には手の平で胸を押さえるようなしぐさをされます。逆に指先で胸の一点を指してその部分が痛いという場合は狭心症の症状ではなく、胸の壁の痛み、たとえば肋間神経痛のことが多いようです。(3) 胸の痛みが続く時間は?:
狭心症の症状が続く時間は通常数分ぐらいで、長くても10~15分ぐらいです。ただし痛みの続く時間が長くなるほど病状が進行している可能性が考えられます。30分以上続く場合は血管が塞がってしまった状態(急性心筋梗塞)になっているかもしれません。逆に症状の続く時間が瞬間から数十秒と短い場合、逆に数時間から半日と症状(例えば胸部の重だるい感じなど)が続く場合は狭心症による可能性は低いです。但し、症状を有する場合は患者様よりお話を聞くだけで狭心症を疑うことができますが、高齢者・糖尿病を有する方は症状がない場合もありますので注意が必要です。
動脈硬化のよる冠状動脈の狭窄は、これまで徐々に進行すると考えられていましたが、最近は、血管の壁にできた動脈硬化巣(プラーク)の皮が突然破れ(プラークラプチャ)、そこに血栓という血の固まりができて血管をふさぎ、突然胸痛が出てきたり(不安定狭心症)、完全に血管が塞がった状態が続くと急性心筋梗塞になることがわかってきました(これらの病態を急性冠症候群といいます)。
今までになかった狭心症状が突然現れたり、痛みの程度や続く時間が長くなってきたり、一日に何回も起こるようになった場合は迷わず医療機関を受診することが大切です。狭心症にならないようにするために、また狭心症の患者様はこのような不安定化・急性心筋梗塞にならないようにするためには生活習慣の改善(運動不足・過食・ストレス・喫煙)、冠危険因子(高血圧、糖尿病、高脂血症)の治療が肝要です。さらに天候が不順な場合は(特に気圧が変化する場合)は上述のプラークラプチャが起きやすいので、上述の冠危険因子・生活習慣のある患者様は不安定狭心症・急性心筋梗塞が生じる恐れがありますので要注意です。(心臓内科)
- 心房細動(しんぼうさいどう)
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心房細動とは、脈の乱れる不整脈の一種で、心房筋の中を複数の異常な電気信号が不規則に走り回り、脈が絶対的に不規則な状態です。心房細動は発作性(時々心房細動であるもの)と慢性(常に心房細動であるもの)に分類されます。その原因は何らかの心疾患や高血圧症によることもありますが、原因が不明なこともしばしばあります。また誘因としてはアルコール、ストレス、過労などがあります。
症状としては、動悸(時に労作時)、胸痛や胸部不快感、ふらつき、全身倦怠感などがあります(無症状の場合もあります)。また慢性化すると自覚症状が軽減する場合がありますが、心房細動自体が治ったわけではありません。心房内によどんだ血液が溜まることにより血栓という血の塊ができやすくなります。その血栓が血液の流れに乗って脳の方へ流れ出て血管を塞ぐと突然手足が動かなくなる、しゃべることができなくなるなどの脳塞栓の症状がでることがあります。
発作性心房細動の治療には心房細動の停止・再発予防、血栓症の予防を、慢性心房細動には心拍数の調節と血栓症の予防を行いますが、原因となる心疾患がある場合はその疾患と心房細動の治療を併せて行います。心房細動で血栓塞栓症を最も効果的に予防できる薬は抗凝固薬のワルファリンです。無治療であれば年率5%の割合で脳梗塞などの血栓塞栓症が合併するといわれていますが、適切な量のワルファリンによりこの血栓塞栓症を年率1.5%に減らすことができるとのことです。心房細動の再発予防に抗不整脈剤が用いられますが、場合により非薬物治療(カテーテルアブレーション)での根治療法を行うこともあります。(心臓内科)
- 不整脈(ふせいみゃく)
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心臓は規則正しいリズムで拍動をしていますが、不整脈とはそのリズムが乱れた状態をいいます。脈拍数は通常1分間に50~90くらいですが、不整脈は大きく分けて1分間に100以上の頻脈になるものと、1分間に40以下の徐脈になるものなどがあります。不整脈は軽いものから緊急に適切な治療を受けないと急死するようなものまで、多くの種類の不整脈がありますが、いずれにしても医療機関に受診することをおすすめします。下記にその受診の必要な不整脈の一部を列挙します。
(1) 頻脈(発作性上室性頻拍症など):
脈が突然早くなり(1分間に150~200以上)心臓がどきどきしたり、息苦しくなります。非薬物治療としてカテーテルアブレーション(不整脈を起こしている回路をカテーテルにより焼き切る治療)が確立された治療方法であり、これにより不整脈を根治できる場合が多いようです。(2) 徐脈(洞不全症候群、房室ブロック):
脈拍数が40以下になると倦怠感、めまい、ふらつきを起こすことがあります。症状によってはペースメーカーという機械を入れることもあります。(3) 期外収縮:
脈が打っている途中で抜ける状態をいいます。夜更かし、タバコの吸い過ぎ、コーヒー・アルコールの飲み過ぎなどで起きることがあります。期外収縮が続いて起こると心臓がドキドキしたり、心臓のつまずく感じや胸がしめつけられるような感じがします。(4) 心房細動:
脈は全く不規則で大小不同になります。心房の血液がかたまりやすくなり、この血液のかたまり(血栓)が脳の動脈につまり、脳梗塞を起こしやすくなります。(心臓内科)
- 大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)
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大動脈とは,心臓(左心室)から送り出された血液がまず通る太い血管です.この大動脈が部分的に太くなってこぶのようになったものを大動脈瘤といいます.大動脈瘤ができる原因は,多くは動脈硬化であり,高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙,ストレスなどが関係していると考えられています.また動脈硬化以外に,炎症,感染,遺伝的素因等が原因になる場合もあります.
大動脈瘤の分類
部位による分類
大動脈瘤ができた部位により,胸部大動脈瘤,腹部大動脈瘤,胸腹部大動脈瘤(胸部と腹部にまたがったもの)に分類されます.胸部大動脈瘤はさらに上行,弓部,下行の3つの部位に分かれます.
形態による分類
瘤の形によって,紡錘状瘤(左右対称的な形をしたもの)と嚢状瘤(非対称的な袋のような形をしたもの)に分けられます.一般的に嚢状瘤の方が破裂しやすいと考えられています.
瘤の壁の構造による分類
動脈の構造は,内膜,中膜,外膜の3層でできていますが,この3層構造が保たれたまま拡大したものを真性瘤といいます.一方この壁が欠損し,血液が漏れて周りの組織でかろうじて押さえられているものを仮生瘤といいます.また内膜に亀裂ができ,動脈の壁の中に出血が広がり血管が裂けて拡大してくるものを解離性大動脈瘤といいます.大動脈瘤の症状
解離性大動脈瘤では,発症時に胸や背中に激痛が生じますが,真性の大動脈瘤で,症状がないことが特徴です.レントゲンや,CT,あるいは超音波検査で偶然にみつかることがほとんどです.稀に胸部の大動脈瘤で,食べ物が飲み込みにくくなったり,声がかすれたりするという症状がでる場合がありますが,多くの大動脈瘤では,破裂するまで症状はありません.しかしいったん破裂すれば,激しい痛みが生じ,出血のため血圧が低下して意識がなくなり,病院までたどりつくことなく死亡することが稀ではありません.この症状に乏しいと言うことが,大動脈瘤の特徴であり,また恐いところです.大動脈瘤の治療
大動脈瘤は現在のところ,薬によって治す(縮小させたり消失させたりする)ことはできません.また大きくなることを止めたり破裂しないようにすることも非常に困難です.たばこを吸っていると破裂しやすいと言われており,禁煙が重要です.また血圧が高いと瘤の壁にかかる力も大きくなるため,血圧をコントロールすることが重要です.しかし血圧をいくら正常にしても,大動脈瘤は徐々に大きくなり,破裂の危険性をなくすることはできず,大きくなった場合には外科治療が必要となります.
外科治療には2つの方法があります.一つは大動脈瘤を人工血管で置換する方法です.この方法は人工血管を大動脈に縫いつけるため,確実な方法ですが,胸や腹を切開する必要があります.また胸部大動脈瘤では,体外循環装置など大がかりな補助手段が必要です.もう一つの方法は,足の付け根の動脈から,カテーテルを用いてバネ付きの人工血管(ステントグラフト)を挿入する方法です.この方法は,胸や腹を切開しなくてもよいため体に与える侵襲は小さく,手術の危険性が少なくなります.しかし,大動脈とステントグラフトはばねが広がろうとする力で接触しているため,ステントグラフトの横から漏れ(エンドリーク)が生じて大動脈瘤の破裂を防げなかったり,後でステントグラフトが動いてしまったりする危険性をはらんでいます.また治療の歴史が浅く,長期の成績が分かっていないなどの欠点もあります.どちらの方法が適しているかは,患者さんの年齢,体力,大動脈瘤の部位,形態等によって異なりますので,医師とよく相談することが必要です.(心臓血管外科) - 心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)
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心臓は、全身に血液と酸素を供給する、ポンプのような役割をしている臓器です。その心臓は4つの部屋(左右の心房、心室)からなり、各部屋の出口に弁が存します。これらの弁は、血液が一方向にしか流れないように、逆流を防ぐために存しています。
右心房と右心室の間にある弁が「三尖弁」、右心室と肺動脈の間にある弁が「肺動脈弁」です。また、左心房と左心室の間にあるのが「僧帽弁」、左心室と全身をめぐる大動脈の間にあるのが「大動脈弁」です。
心臓弁膜症とは、心臓にあるこのような弁が犯され、本来の役割を果たせなくなった状態をいいます。弁が犯されると、一方向の効率的な血流が阻害され、体の要求に見合った循環が維持できなくなって、様々な症状がおこってきます。
弁膜の開放がうまくいかない状態を「狭窄症」、閉鎖がうまくいかない状態を「閉鎖不全(=逆流症)」と呼びます。弁の上に結節ができたり、弁が傷ついたり、あるいは弁の短縮などにより弁尖の辺縁がきちんと重ならないことによって生じます。一つの弁で両方の病態が存在する場合もあります。そのときは「狭窄兼閉鎖不全症」といいます。弁膜症は4つの弁のうち、「大動脈弁」と「僧帽弁」に多く起こる疾患です。
弁膜症の原因には、先天性(生まれつきの心臓の構造異常)と後天性(リウマチ熱、動脈硬化、心筋梗塞、変性など)があり、原因を特定できないものもあります。10数年前までは、リウマチ熱という子供のころに罹りやすい感染症の後遺症として、弁が犯されることが心臓弁膜症の主な原因でしたが、現在は抗生物質の普及によりリウマチ熱自体が減り、リウマチ熱を原因とする弁膜症は減少しました。一方、加齢に伴う動脈硬化性の変化が大動脈弁に起こり、弁が硬くなり、うまく開かなくなる「大動脈弁狭窄症」や、弁膜やそれを支える構造が伸びきってしまい、起きる「僧帽弁閉鎖不全」が増加しています。
症状として、動悸や息切れ、胸痛、呼吸困難などが出てきます。弁膜症の症状はゆっくりと進行することが多く、心臓に負担がかかっていても、心臓は本来の働きを補おうとします(代償機能)。そのため、患者さん自身が自覚症状をあまり感じていないということがよくあります。また、僧帽弁疾患は心房細動という不整脈を合併しやすく、血栓塞栓症に注意が必要となります。また大動脈弁疾患は最後まで無症状のことが多く、症状出現以降は予後不良のため、専門医と手術時期についてよく相談が必要です。また一般的に弁膜症では、血圧や心拍数のコントロール不良は心不全の原因となりえますので、たとえ手術適応でなくても、内服加療で上記をコントロールすることも非常に大切です。
弁膜症は自然に治ることはないので、心臓の筋肉の障害が進行する前に治療をすることが非常に大切です。悪くなった弁は、薬で元通りに治すことはできません。内科的治療の限界にある場合には、手術治療(僧帽弁狭窄症に対するカテーテル治療を含む)が必要となります。特に大動脈弁狭窄症では有効な薬物治療がないため、症状がある場合は手術(経皮的大動脈弁置換術を含む)以外に治療方法がないのが現状です。 手術方法には、カテーテル治療以外に弁形成術(弁の修復術)と弁置換術(人工弁に入れかえる手術)の2種類があります。手術は胸を開け、心臓を止めて行なうことが一般的で、簡単にできるわけではなくそれなりの危険があります。よって、手術適応がある程度決まっています。
早期に手術を受けるほうが術後の経過や心臓の機能回復がよいため、手術のタイミングを適切に判断することが重要となります。
心臓弁を取り換えたからといって、一生座りっぱなしで過ごさなければならないというわけではありません。現に、心臓弁膜症の手術を受けた大勢の人が、手術前よりも活発で充実した生活を送っています。 弁膜症と診断されたら病気に対し正しい知識をもち、担当の医師と十分に話し合うことをお勧めいたします。(心臓血管外科)
呼吸器
- ショパンと肺結核(はいけっかく)
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今年(平成22年)は「ピアノの詩人」と言われたショパンの生誕200年の年でもあります。日本人のショパン好きはかなりのもので、先日もNHKで「ショパン大好き」といった番組が流れていましたが、ピアニストの中村紘子さんがある町で「子犬のワルツ」を弾いたら、おばさん達が「あ、知ってる。ショパンよね。」とざわめいたことを話していました。
そのショパンが若くして肺結核で亡くなったことは意外と知られていません。今でこそ多剤耐性結核菌でないかぎり、イソニアジド、リファンピシン、ストレプトマイシン(ストマイ)などの優れた抗菌薬のおかげで、結核は治る時代となっていますが、1944年にストマイが発見されるまでは多くの人々が、血を吐いて亡くなっていました。「柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺」の正岡子規をはじめ、日本の著明な文化人も結核で亡くなっています。当時結核はまさに「死の病」だったわけですが、今は半年で治ってしまいます。ただし、咳や痰を介して他人に移るので、排菌しなくなるまで専門病院に隔離されます。ショパンは28歳の時スペインのマジョルカ島に半年間結核療養で滞在していますが、当時は空気の良い所でおいしい物を食べて免疫抵抗力をつけて治すしかなかったわけです。
大阪は全国で一番結核患者が多く、隔離病棟のない当センターにおいても、外来ではしばしば肺結核患者さんを診察する機会に遭遇します。症状は、栄養事情の悪かった昔と違って、現在は喀血で受診される患者さんはいなくて、せいぜい痰に少し血がついていたとかで、ほとんどの人が咳が続いてる、風邪がなかなか治らない、などです。また、糖尿病や腎不全、あるいはステロイドなどの免疫抑制剤を服用している人々はより感染しやすく注意が必要です。診断は呼吸器内科に受診する必要がありますが、主に痰の検査と胸部レントゲンで行います。これで診断がつかないときは、胸部CT、クォンティフェロン検査、場合によって気管支内視鏡検査を行いますが、痰の検査が最も重要です。
フレデリック・ショパンは1810年3月1日ポーランドに生まれ、1849年10月17日に39歳で亡くなった薄幸の天才ピアニストです。ピアノ協奏曲第1番、ノクターン、別れの曲、幻想即興曲、 雨だれの前奏曲、英雄ポロネーズなどの名曲を作っていますが、「ショパン大好き」の番組では英雄ポロネーズが一番人気でした。19歳のとき、初恋の人コンスタンツィアへの想いをピアノに託した「ピアノ協奏曲第2番」もピアノで奏でた恋文として有名です。「まるで息をしているような旋律が、恋文のようにピアノで見事に表現されている」と絶賛されています。ショパンの息づかいを感じながら呼吸器の不思議な魔力にとりつかれてしまった今日この頃です。(内科・呼吸器内科)
- 若い人の肺がん(ALK肺がん)
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肺がんは日本人の死因のトップを独走している。年間6~7万人もの肺がん患者さんが亡くなっている。がん患者さんの罹患数のトップはいまだに胃がんであるが、胃がんは早期診断の進歩とヘリコバクターの発見が死亡率を減少させている。片や肺がんは早期診断が困難で、禁煙が重要であるものの原因究明が遅遅として進んでいない。
そのような情勢の中で肺がんの分子生物学が進歩して、一部の肺がんの発症原因と思われる遺伝子変異が明らかになってきている。その一つがEGFR遺伝子変異であり、もう一つがEML4-ALK融合遺伝子の発見である。いずれもタバコが直接遺伝子変異を起こしたわけではなく、未知の要因がそれぞれの遺伝子に作用して発症してきたと推測されている。
EGFR遺伝子変異とEML4-ALK融合遺伝子はいずれも肺がんの中で最も多いタイプの腺がんに頻度が高く、がん細胞のチロシンキナーゼという鍵となる酵素を無制限に産生する能力を持っている。
そのチロシンキナーゼは二つの遺伝子で異なる構造を持っているが、それぞれを特異的に阻害する薬が開発されていて、大きな成果を挙げている。前者の阻害剤がイレッサやタルセバであり、後者の阻害剤が平成23年8月26日、アメリカFDAが認可したばかりのクリゾチニブである。前者は既に日本においても一般診療に使用可能で、後者も近い将来使用できるであろう。
EGFR遺伝子変異は平成16年に解明されて、平成22年にはイレッサやタルセバが明らかに有効であることが判明し、EGFR変異肺がんに対する標準治療としての地位を確固たるものにした。一方EML4-ALK融合遺伝子は、日本の間野博行らによって平成19年に解明された新しい癌遺伝子で、平成22年アメリカ癌学会においてALK肺がん患者にクリゾチニブが有効であることが華々しく披露され、1年後のFDAの認可につながった。
肺がんは多くは高齢者に発症し、その発症のピークは70代であるが、EML4-ALK融合遺伝子は若い患者さんに多く、私共の内科・呼吸器内科の患者さんは20代であった。アジアで最初のクリゾチニブの臨床治験に参加し、劇的に症状が改善したとき、「私も私にこの薬を教えてくれたアメリカの友人と同じように、同じ病気を抱えた方々にブログで勇気とメッセージを伝えたい。そして治ったらこの病院でボランティアがしたい。」と夢を語ってくれたことが今も目に焼き付いている。
今や、肺がんは遺伝子の異常を検査することによって、手術以外の方法で治る可能性がある肺がんのタイプを明らかにできる時代になりました。特に若い肺がん患者さんは、採取されたがん細胞の遺伝子検査を受けましょう。ALK肺がんやEGFR変異肺がんなら手術不能でも治る可能性があります。(内科・呼吸器内科)
(お問い合わせ:tanioy@gh.opho.jp)
消化管
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)
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どんな病気ですか?
胃潰瘍と十二指腸潰瘍と合わせて消化性潰瘍と呼ばれ、胃・十二指腸の粘膜に傷ができ、粘膜の欠損を生じた状態を指します。原因は何なのですか?
胃酸が消化性潰瘍の原因として大きな役割を果たしていると考えられています。この胃酸分泌の背景にあるのが、ヘリコバクターピロリ(胃内で生息可能な細菌)、鎮痛剤などの薬剤、ストレス、アルコール、喫煙などが考えられています。この中でもヘリコバクターピロリと薬剤は消化性潰瘍の原因として非常に重要です。消化性潰瘍はこれらの種々の原因のいずれかあるいはいくつかが重なり発症すると考えられます。どのような症状がありますか?
心窩部(みぞおち)、上腹部の痛みを自覚することが多く、食欲不振、腹部膨満感、胸やけ、嘔気、嘔吐、げっぷなどの症状が認められます。高齢の方や糖尿病の方は無症状で発見されることもあります。特に注意のいる症状は下血(主に黒色のコールタール様の便)、吐血が認められた場合で、消化性潰瘍からの出血が考えられるためこの際には早急に医療機関を診し治療を受ける必要があります。どのようにして診断されますか?
胃レントゲン検査(バリウムを飲む検査)、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で診断されます。特に胃潰瘍においては胃がんとの鑑別が重要になるため、生検(粘膜をとる検査)による病理組織学的診断が不可欠となるため、胃カメラによる精密検査が必要と考えられます。
多くの方が胃カメラに対して、「しんどい検査」という先入観をお持ちかと思いますが、当院では患者さんのご希望があれば鎮静剤という眠たくなる薬を使用して、苦痛を感じることなく胃カメラを受けていただくことも可能です。どのようにして治療されますか?
効果の優れた薬の出現で、ほとんどの場合消化性潰瘍は薬物で治療可能で、特殊な場合を除き手術することはなくなりました。薬物療法の主体は胃酸分泌を抑える薬剤です。状況に応じてさらに粘膜保護剤など複数の薬剤を併用することがあります。
ヘリコバクターピロリという細菌がいる場合は、胃潰瘍再発防止のためまた胃がん予防の点からこの菌を除菌する治療も合わせて行うことが重要です。また、薬剤が胃潰瘍の原因と考えられる場合はその薬剤を処方してもらっている医師と相談する必要があります。(消化器内科) - 潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)
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どんな病気ですか?
潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる病気で炎症性腸疾患の1つです。直腸から連続的に口側へ病変が広がる特徴があります。症状は下痢、粘血便、腹痛、発熱などがあります。原因は免疫異常、腸内細菌の関与、食生活の変化、遺伝的要因などが言われていますがまだよくわかっていません。もともと欧米に多い病気ですが、我が国でも年々その患者数は増加しています。発症年齢は男性20~24歳、女性25~29歳にピークがありますが、若年者から高齢者まで発症します。どのように診断されますか?
診断はどのように行われますか?
下痢や粘血便などの症状に対して大腸内視鏡検査を行い、炎症、潰瘍の形態、病変の範囲を調べ、大腸粘膜の一部を採取(生検)し、病理診断により確定します。どのように治療されますか?
炎症を抑えるために5-ASA製剤、ステロイド、免疫抑制剤などの薬剤が使われています。5-ASA製剤を基準薬として、重症度、病変の範囲によりステロイド、免疫抑制剤、白血球除去療法(LCAP)を組み合わせます。多くは薬物治療でコントロールできますが、大量出血、中毒性巨大結腸、大腸穿孔、癌(がん)化、またはその疑い、内科治療に反応しない重症例、副作用のためステロイドなどの薬剤を使用できない場合は手術が選択されます。手術は全大腸を切除する大腸全摘が基本となります。現在は肛門を温存する手術が主流で、大腸を取り除いた後、小腸で便をためる袋を作って肛門につなぎます。病気の経過はどうなるのでしょうか?
多くは内科治療で寛解(治癒したわけではないが病気の症状が一時的に軽減あるいは消失した状態)、しますが、再発を繰り返すことが多いため、寛解状態を維持するための治療を続ける必要があります。生命への影響は一般の人とあまり変わりませんが全大腸炎型で10年以上の経過で大腸癌の危険性が増大するといわれていますので定期的に内視鏡検査を受けることが必要です。(消化器内科) - 大腸ポリープ
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どんな病気ですか?
大腸ポリープとは、大腸粘膜上皮(内側の壁)が限局性に増殖し隆起したものを言い、腫瘍性と非腫瘍性とがあります。全人口の9-15%、65歳以上の30%にみられるといわれています。その形態から、明らかに隆起した隆起型、なだらかな隆起の平坦型、隆起よりも陥凹が目立つ陥凹型に分けられます。多発することもあり、まれにポリポーシスと言って大腸に100個以上ポリープができることがあります。診断と治療はどのようになされるのですか?
大腸ポリープは無症状であることが多く、大腸がん検診で行われる便ヘモグロビン検査が陽性であったり、腹痛の精査といった理由で大腸内視鏡検査を行った際に偶然発見されることがほとんどです。直径が5mmにも満たないようなものは経過観察することもありますが、ある程度の大きさになると内視鏡を用いて切除(内視鏡的粘膜切除術)します。その際に顕微鏡で病理検査を行いますが、ほとんどの場合が良性の腫瘍である腺腫といわれるものです。しかし腺腫は癌(がん)の前段階にある病変と考えられており、ある程度の大きさ以上になると癌(がん)化の危険性が増し、病理検査でその一部に癌(がん)細胞が混じっている腺腫内癌(がん)といわれる状態になるものがあります。また外見からだけでは早期大腸癌との区別がつきにくく、ポリープと診断されても病理検査の結果大腸がんと診断されることがありますが、近年では大腸粘膜に色素をかけたり、特殊な光をあてて拡大して観察できるNBI内視鏡を用いて、切除する前に大腸がんとある程度診断することもできるようになりました。(消化器内科) - 過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)
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過敏性腸症候群(通称IBS:Irritable Bowel Syndromeの略)は、主として大腸の運動機能の異常で起きる病気です。胃腸に炎症や潰瘍など明らかな異常がないにもかかわらず、強い腹痛、下痢、便秘、腹部膨満などの症状が起きます。IBSは、下痢型、便秘型、便秘下痢交替型に分けられ、排便によって症状は軽快します。最近では過敏性腸症候群の症状を軽くする新薬が開発されていますし、わが国で創られた漢方薬も効果があります。当小児科では多くの患者さんの診療経験から、一人一人のライフスタイルに合わせた心理サポートや様々な薬の処方を行っています。(小児科)
- 鼠径(そけい)ヘルニア
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鼠径ヘルニアとはお腹と足の境界(そけい部)に腸などが飛び出し気味になる病気のことで、俗にいう”脱腸”です。症状は足のつけねにピンポン玉のようなふくらみが出ます。通常強い痛みはありませんが、鈍い痛みを感じる方が多いようです。しかし、時にはヘルニアの孔に腸が完全にはまり込んでしまう場合があり、”かんとん”といいます。この場合、はまり込んだ腸に血が通わなくなり壊死してしまうので早急な整復か緊急手術が必要となります。鼠径ヘルニアの原因は、そけい部の筋膜が加齢とともに弱くなるためであり、強い腹圧に耐えきれずヘルニアが発症します。治療は手術療法のみです。以前は筋膜を頑丈に縫い合わせて孔をふさいでいましたが、手術後の痛みやツッパリ感が強く、また、再発も時にみられました。現在は、筋膜の隙間の弱くなった部分に薄い人工の網目状のシートを挿入し、腹圧に耐えられる壁を作る手術方法(テンションフリー法)が主流です。鼠径ヘルニアでお困りの方、鼠径ヘルニアであるか心配な方、ぜひ一度、当科にご相談ください。 (外科)
- こどもの血便(けつべん)
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こどもの血便は大人よりも重い病気が多いです。3歳までの乳幼児では腸が腸の中に入り込む腸重積という病気があります。始めは下痢か普通の便ですが、やがて粘液の混じった赤い血便になります。腹痛が強いので激しく泣いたり、機嫌が悪くなったり、嘔吐することがあります。治療が遅れると腸穿孔(腸が破れる)が起こります。
細菌性腸炎に罹ると発熱、強い腹痛があり、便は粘液や血液が混った下痢になります。病原菌は、大腸菌、サルモネラ、キャンピロバクターが多いです。大腸菌O-157による腸炎はとくに腹痛、血便がひどいのが特徴です。ときには腎不全、脳症を起こして亡くなることがあります。
そのほかに、メッケル憩室や大腸ポリープからの出血では大量の血便が出ることがあります。大人に比べると少ないですが、大腸炎のため血便が続くことがあります。大腸炎の原因としては潰瘍性大腸炎、クローン病があり、いずれも治療が難しい病気(難病)です。大人に多い胃潰瘍、十二指腸潰瘍もまれに子どもでも起こります。治療は大人と同じです。(小児科)
- 子どもの潰瘍性大腸炎(かいよういせいだいちょうえん)
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潰瘍性大腸炎とは、何らかの原因により、大腸の粘膜に炎症が起こり、そのため大腸に多数の潰瘍ができる病気です。炎症は、肛門に近い直腸から始まり、その後、その奥の大腸に向かって拡がっていくと考えられます。大腸に起こる炎症のために、下痢や粘血便、発熱や体重減少などの症状があらわれます。病状は、治まったり、悪化したりを繰り返すことが多く、長期にわたって続くこともあります。
この病気は、赤ちゃんから小学生、中学生までのどの年齢の子どもにも起こります。とくに大事な成長期に発病して長引くと身長が低くなってしまう怖れがあり、成長期の潰瘍性大腸炎の治療には、特別な注意が必要です。 潰瘍性大腸炎の診断には、内視鏡検査を受ける必要があります。特徴的な異常が見つかれば診断が確認できます。治りにくい場合には、特殊な治療として、白血球除去療法、免疫調整治療などを行います。
- 子どものクローン病
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クローン病は、口から肛門までの消化管に、非連続性(病気がトビトビにできること)の炎症および潰瘍を起こす原因不明の疾患です。クローン病では小腸や大腸に潰瘍ができることが多く、それに伴って腹痛、下痢、体重減少が生じます。子どもでは、赤ちゃんや幼児が発病することはまれであり、10歳代に発病することが多い病気です。診断は、大腸内視鏡検査や小腸、大腸のレントゲン検査で行います。胃・十二指腸の内視鏡検査などが診断に役立つこともあります。
この病気は状態が良くなったり(緩解期)、悪くなったり(活動期)を繰り返し、治療によって症状を軽くすることはできますが、現在のところ完全に治す方法はありません。 治療は、薬物や栄養などの内科的治療を行います。薬物としては、ペンタサ、副腎皮質ホルモン(ステロイド)、免疫調整薬などが用いられています。栄養療法には、完全中心静脈栄養と経腸栄養があります。
外科
- 切らずに直す外科治療へ
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『がんを切ります』と言われたら皆様は、どのようなイメージをもたれるでしょうか?手術室の中で手術衣を着た外科医が大きくおなかを開いて、血にまみれながら手術をしている場面が想像されるのではないでしょうか?ところが、今手術室の中の様子は、大きく変わってきております。小さなキズをおなかにいくつかつけ、そこから目の代わりとなるカメラ、手の代わりとなる鉗子をおなかの中に入れます。テレビモニターを見ながら行われるために、『鏡視下手術』と呼ばれるこのような手術のやり方が1980年代後半よりまず婦人科の病気で導入されさらに胆石の手術へさらに2000年以降様々ながんの手術へ用いられるようになってきました。現在では外科の領域では、胃がん、大腸がんから食道がんまで応用されるようになってきました。その結果、小さなキズで痛みが少なく、早い回復が可能となっています。また機器の進歩の結果、カメラを通して見るモニター画像が、直接おなかの中を覗き込んで見るより細かい所まではっきりと見ることができ、より正確な手術を行う事ができたり、出血量を減らすことができたりと手術の質の向上にもつながるとも報告されています。
さらに最近では、臍からの1カ所のキズのみで行う単孔式手術や、胃や膣の壁を破っておなかの手術を行うことでキズが全く残らないNOTESといった手術が報告され、より体に負担をかけない手術が開発されつつあります。
しばらくするとおなかのキズがないおなかの手術が可能になるかもしれません。(外科)
- 眼瞼下垂
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眼瞼下垂とは上まぶたが下がり視野狭窄を呈する状態をいいます。両側の場合もあれば片側の場合もあります。
上まぶたを挙げる筋肉の作用がうまく機能しなかったり、まぶたはしっかりあがっているのに皮膚がたるんでしまっているなど、病態もさまざまです。
原因としては先天的なものありますが、後天的に加齢によるもの、またハードコンタクトレンズを長期にわたり着用したりすることによっても生じます。
他人から”眠たそうな眼をしている”と言われたことがあったり、”眉毛を上に引っ張ると物がみやすい”と感じる人は眼瞼下垂かもしれません。一度、専門医に御相談ください。 (形成外科)
肝・胆・膵
- ウイルス性肝炎(かんえん)
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はじめに
肝臓は’沈黙の臓器’と言われています。慢性肝炎はほとんどの場合無症状で進行し、肝硬変や肝臓癌になって初めて浮腫、腹水、黄疸、下血、倦怠感、発熱などの症状が見られるようになります。慢性肝炎に罹っているか否かを知るためには、血液検査を受けることが肝要です。我が国では肝機能異常の原因として、ウイルス性肝炎であるC型慢性肝炎やB型慢性肝炎、いわゆるメタボリックシンドロームに伴う非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性肝障害が多く見られます。このうち薬物治療の対象となることが多いC型慢性肝炎とB型慢性肝炎につき紹介します。C型慢性肝炎
C型慢性肝炎は、我が国の全人口の約1.5%が罹病していると推定されています。特に、50歳以上の中高年者では高い割合で認められます。慢性肝炎や、次の段階である早期の肝硬変の状態では、ほとんどの場合目立った症状はありません。しかし、多くの場合、年単位で徐々に肝臓が障害され、しばしば肝硬変となり、60歳後半以降で肝細胞癌に至ると言われています。C型肝炎ウイルスに感染しているかどうかは血液検査でわかりますし、肝障害の程度がどのくらいかは血液検査等により分かります。
C型肝炎ウイルスを排除してしまう根本的治療としては、インターフェロン治療があります。この治療に対しては現在、政府による治療費助成制度があります。C型肝炎ウイルスは1型と2型に分類され、1型でインターフェロンが効きにくく、血液中のウイルスの量が多い場合も効きにくいことがわかっています。このため、1型・高ウイルス量に対しては、インターフェロン注射と抗ウイルス薬であるリバビリン内服の併用療法が、48~72週間行われます。2型・高ウイルス量に対しては、インターフェロン・リバビリン併用が、24週間行われます。その他の群では、インターフェロン単独治療が24週間あるいは更に延長して行われます。これらのインターフェロンを使った治療で完全にウイルスを排除できる確率は、1型・高ウイルス量で40-50%、それ以外で70-90%です。インターフェロンが無効である場合や副作用等で使えない場合は、肝庇護剤で肝炎の活動性を沈静化し、肝病変の進行をできるだけくい止める治療が行われます。
C型慢性肝炎は、飲酒や肥満が肝炎の活動性を高め、肝硬変への進展を早めることが知られており、食生活に注意を払うことも大切です。また、日常生活で他者に感染することは極めて稀でありますが、血液を介しての感染ですので、血液の付く可能性のある髭剃り等の共有はせず、けがの処置には注意する必要があります。B型慢性肝炎
我が国では、B型肝炎ウイルス感染者は全人口の約1%に認められます。その多くは、肝臓に明らかな炎症のない無症候性キャリアーの状態です。しかし、B型肝炎ウイルス感染者の1割ほどの人が肝臓に炎症を持っており、病変が進行して、肝硬変、肝癌に至ると言われています。感染経路は、分娩や乳幼児期の濃厚な接触による、母親から子供への’垂直感染’ がほとんどです。乳幼児期にB型肝炎ウイルスに感染すると、ウイルスは排除されることなく、慢性感染持続状態となります。幼児期から思春期にかけては、ウイルス量は多いですが、肝臓にはまだ炎症がありません。その後30歳代までに、約9割の人は一過性の肝炎を起こし、ウイルス量が激減して肝機能は正常化します。この際、少数ではありますが、入院加療が必要な重症肝炎や生命に関わるような劇症肝炎を発症する場合があります。一方、他の約1割の人はウイルス量が減少することなく肝炎が持続し、肝硬変、肝細胞癌に至る危険があります。
成人では、血液を介したり性交渉により感染しますが、ほとんどの場合、急性肝炎となり、ウイルスは排除され、慢性化はしません。しかし、この際に、重症肝炎や劇症肝炎となる場合があります。最近、元々欧米に見られる、遺伝子型AのB型肝炎ウイルスによる成人の急性肝炎がわが国でも見られるようになり増加しています。この場合は、成人感染でも約2割が慢性化すると言われています。
B型肝炎は病態が多彩であり、血液検査、画像診断等での専門医による診察を受けることが強く推奨されます。自然経過で9割の人がウイルス増殖を抑制し、肝機能正常状態になるため、若年者に対してはそれを期待して経過観察とし、重症肝炎の兆候や進展の兆候があれば治療を開始します。一方、30歳代以降の慢性肝炎患者には、ウイルス増殖の抑制や肝炎の沈静化を目標として治療が行われます。ウイルス増殖の抑制には、エンテカビル、ラミブジン、アデホビルの抗ウイルス薬の内服やインターフェロン注射が有効です。また、肝炎活動性の沈静化のみを目的として、肝庇護剤が用いられることがあります。飲酒や肥満により、肝病変の進展が促進されるため、日常生活の注意が必要です。
いわゆる’無症候性キャリアー’の場合でも、ウイルスの再活性化や肝細胞癌の危険は、少ないながら存在するため、専門医による経過観察を受けることが推奨されます。(消化器内科) - 子どものB型肝炎、C型肝炎
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子どもの肝臓病の原因として、ウイルス肝炎であるC型肝炎やB型肝炎が多く見られます。いずれも薬物治療で治ることが多く、おもに最近の治療の進歩を紹介します。なおウイルス肝炎に罹っているかどうかを知るためには、まず血液検査を受けることが必要です。
C型肝炎
しだいに肝臓が障害され、肝硬変となり、成人後半以降で肝細胞癌に進行することが分かっています。C型肝炎ウイルスを排除してしまう根本的治療としては、インターフェロン治療があります。この治療に対しては現在、政府による治療費助成制度があります。C型肝炎ウイルスは1型と2型に分類され、1型は治りにくく、2型はよく治ります。このため、1型に対しては、インターフェロン注射と抗ウイルス薬であるリバビリン内服の併用療法が、48週間行われます。2型に対しては、同じ治療を24週間行います。最新の治療法で完全にウイルスを排除できる(治る)確率は、子どもでの1型では約70%、2型では約90%です。B型慢性肝炎
B型肝炎では1割ほどの人が肝臓に炎症を持っており、肝硬変、肝癌に進行することが分かっています。感染経路は、母親から子どもへの感染がほとんどです。乳幼児期にB型肝炎ウイルスに感染すると、ウイルスは排除されることなく、慢性感染持続状態となります。幼児期から思春期にかけて、肝臓に炎症をおこすことがあります。ウイルス増殖を抑制してB型肝炎を抑えるのには、エンテカビル、ラミブジン、アデホビルなどの抗ウイルス薬の内服やインターフェロン注射が有効です。HBワクチンが有効な子どもも経験します。 - 肝硬変(かんこうへん)
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どんな病気ですか?
肝硬変はさまざまな原因による肝細胞障害の長年の経過で、肝細胞の破壊と再生、線維の増生により肝臓の構造が改築され表面的には凹凸の変化になった状態です。どんな原因でなるのですか?
ウイルス性(B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルス)のものが約80%を占め、続いてアルコール性が約13%そしてその他が7%とされています。その他のものでは非アルコール性肝炎(NASH)、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変などがあります。どんな原因でなるのですか?
ウイルス性(B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルス)のものが約80%を占め、続いてアルコール性が約13%そしてその他が7%とされています。その他のものでは非アルコール性肝炎(NASH)、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変などがあります。どのような症状がありますか?
肝硬変の代償期には目立った症状はないことが多く、非代償期では全身倦怠感や食欲不振などの症状が出て、さらに黄疸による皮膚のかゆみ、腹水貯留によるおなかの張り、肝性脳症による意識障害などが生じます。どのようにして診断されますか?
肝硬変という病名は病理学的な診断名であり、肝臓を腹腔鏡という内視鏡で観察したり、肝生検で顕微鏡的に診断するのが正確です。慢性肝炎から肝硬変へ徐々に移行していくため、一時点で肝硬変になったと明確に診断することはできません。腹腔鏡や肝生検は侵襲的でしばしばできる検査ではありませんので、負担の少ない検査で診断する場合は、いろいろな血液検査の組み合わせやエコー、CTなどの画像検査により総合的に診断します。どんなことに注意すればよいでしょうか?
肝硬変では命にかかわる病態として、肝癌の発生、食道静脈瘤からの出血、肝不全がありこれらの兆候がないかを定期的診察でチェックすることが重要です。血液検査のほかに、肝癌を調べるためにエコーまたはCT、MRIといった画像検査、食道静脈瘤を調べるために上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)も必要です。経過の長い病気ですのでかかりつけの医療機関や専門病院の両方をうまく活用して診療を受けるのがよいでしょう。どのように治療されますか?
肝硬変を治して肝臓を正常な状態に戻すことは困難ですが、原因療法により原因を断つことができれば病変は進展しなくなります。B型肝硬変やC型肝硬変では状態により抗ウイルス療法を受けることもできますのでALT値が高くまだ進行性のある状態の方の場合は検討するとよいでしょう。ALTを低下させ、肝炎を鎮静化させ更なる進展を防止するためにウルソの内服やグリチルリチン製剤の注射などが行われます。肝硬変では糖質、蛋白の代謝障害が生じてきますので食事療法も重要になりますが、肝硬変の状態でも異なってきますので検査結果に応じて対応していく必要があります。低アルブミン血症がある場合は分岐鎖アミノ酸製剤の服用により肝硬変に伴う合併症の出現が抑えられるとされています。予防できるのですか?
肝障害を早期に見つけ慢性肝炎の段階で原因を断つことができれば肝硬変への進展を予防できます。たとえばB型肝炎ウイルス感染がある場合はインターフェロンや抗ウイルス剤による治療で肝硬変への進展を抑えることができるようになりましたし、C型肝炎ウイルス感染でもインターフェロンを中心とした治療でウイルスを排除できたり、肝炎を抑えることでができれば肝硬変への進展を抑制できるようになりました。他の原因でも原因療法ができれば肝硬変への進展を予防できますし、肝炎を鎮めることで肝硬変への進展を遅らせることができます。それでも肝硬変への進展が抑えられず肝不全という状態になってきた場合は肝移植のみが救命のための唯一の手段となることもあります。肝硬変といっても様々な段階がありますので常に詳細に肝硬変の状態を評価しておくことが重要です。(消化器内科) - 急性膵炎(きゅうせいすいえん)・慢性膵炎(まんせいすいえん)
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どんな病気ですか?
急性膵炎は、膵臓で作られる膵液に含まれる消化酵素が自ら膵臓を消化し、組織が壊死する病気です。原因としてはアルコールが多く、胆石、高脂血症、薬剤、外傷などのほか原因のわからないものもあります。どのような症状がありますか?
急性膵炎の腹痛はみぞおちから背中にかけての激痛で、普通の痛みどめではなかなか効きません。どのようにして診断されますか?
アミラーゼやリパーゼなどの膵酵素が血液中あるいは尿中で高値となり、腹部超音波検査やCT検査で膵臓の腫れや膵臓周囲の液体貯留、膵実質の不均一化などがあれば急性膵炎と診断されます。どのようにして治療されますか?
腹痛の苦痛を和らげるため強力な鎮痛剤が必要となります。食事や水分をとると膵液が分泌され膵炎が悪化するので、絶飲絶食が治療の基本はとなります。また、膵炎により水分が血管から漏れてしまうため循環血液量補給のため点滴による十分な水分補給が必要です。膵臓の蛋白分解酵素活性を中和するため蛋白分解酵素阻害剤の点滴投与を行います。数日で治る軽症もありますが、膵液が周囲の組織に浸潤して壊死部が広がり、そこに腸内細菌が感染して敗血症を起こし、命にかかわるような重症の膵炎もあります。感染性膵壊死を生じた場合は手術が必要なこともあります。どんな病気です?
慢性膵炎はアルコールを長期にわたって大量に飲んだり、急性膵炎を繰り返して膵臓を傷めた結果、徐々に膵臓の正常な細胞が破壊されていく病気です。カルシウムが膵臓に沈着して石灰化が起こり、膵管に膵石という結石ができることもあります。慢性膵炎が進行すると膵臓の機能が低下し、インスリン分泌不全により糖尿病になったり、消化酵素が不足し消化不良となって下痢をしやすくなります。一時的に炎症が強くなると急性膵炎と同様の強い腹痛を起こすことがあり、この時は急性膵炎に準じた治療を行います。普段は消化剤を服用したり、糖尿病治療など膵機能低下を補うようにします。 (消化器内科)
泌尿器
- 成人の血尿(けつにょう)
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成人の肉眼的血尿(無症候性肉眼的血尿)について
無症候性肉眼的血尿とは血尿以外の症状がない肉眼的血尿のことを意味します。
成人の多くは泌尿器科的疾患によるものが多いとされています。1. 膀胱癌、腎盂尿管癌
50歳以上の方の血尿で最も多いのが膀胱癌です。膀胱癌患者の80%以上の人は血尿が主な症状です。この場合は一旦出血しても2-3日でまたよくなり、本人は治ったと思ってしまうことです。特に老人の方は泌尿器科に行くことをためらわれ受診した時には進行していることが多くあります。このような間歇的血尿は膀胱癌に特徴的な症状です。また、腎盂癌や尿管癌の60%の人が初期症状で血尿が見られています。痛み無く血尿が出ればためらわずに泌尿器科を受診しましょう。2.腎癌
多くは健診などで見つかることが多いですが、血尿で見つかることもあります。3. 尿路結石症
多くは側腹部痛があって血尿が出ることが多いですが、血尿だけが症状で結石症が見つかることもあります。その他
前立腺肥大症、出血性膀胱炎、腎炎等がありますが、いろいろ検査して調べたけどわからない特発性腎出血という症候群もあります。血尿というものは身体の異常のサインです。見過ごさずに早めに受診しましょう。(泌尿器科) - 腎臓がん
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腎臓がんとは
腎臓は血液を濾過して尿を作ったり、血圧のコントロールに関するホルモンや造血に関するホルモンを産生する臓器で腎癌はその腎臓に出来る腫瘍で、中高年の方に多い悪性腫瘍です。日本における腎がんの推定罹患率は2005年で人口10万人あたり男性:15.7人、女性:7.5人と報告されています(国立がんセンターがん対策情報センター)。この罹患率は男女ともに年々増加しています。
腎癌のリスク要因としては喫煙、肥満、腎不全が知られています。基礎疾患としては、von Hippel-Lindau病や、結節硬化症、多発性嚢胞(のうほう)腎がリスク要因とされています。症状
古典的三主徴は血尿、疼痛、腹部腫瘤ですが、早期では無症状で最近では人間ドックやがん検診で行われている超音波検査やCT検査で偶然発見される偶発癌が増えてきています。偶発癌では多くは小さな腫瘍であるため有症状で発見される癌より予後が良い事が知られています。
また癌の進行とともに発熱、体重減少、貧血、高カルシウム血症などの全身症状を伴う事もあります。治療
放射線、抗がん剤に対する感受性が低いため古くから手術や免疫療法が行われてきました。腎がんの治療としては手術療法による摘除が唯一根治の可能性をもっており、可能であれば手術療法が第一選択となります。その術式にはがんの大きさ、位置により腎臓を周囲の脂肪ごととる腎摘除術やがんの出来ているところを部分的に取る腎部分切除術があります。近年では低侵襲な腹腔鏡手術にてそれらを行うことが増えています。
一方、手術不能例や有転移症例に対しては従来、免疫療法が施行されてきました。主にインターフェロン、インターロイキン‐2という薬剤が用いられてきましたが腫瘍の大きさが50%以上縮小する効果は15%前後の症例にしか認めずその効果は限られたものでした。そこで2008年より腎がんにおいても肺癌、乳癌、大腸癌など他のがんと同様に分子標的薬という新概念の抗がん剤治療が使用可能となり急速に広まってきており現在ではスーテント、ネクサバール、アフィニトール、トーリセルの4種類が使用可能となっています。分子標的薬とは理論的にはがん細胞にだけ作用して、正常細胞への影響は少なくなるようにつまり少ない副作用でがんを縮小させることを目的に開発されていますが実際にはその有効性と共に従来の抗がん剤とは異なる独特で重篤な有害事象の出現も報告されています。生存率
一般に5年生存率はⅠ期で90%以上ですが病期が進行するとともに低下し、Ⅳ期となると10%程度まで下がります。(泌尿器科) - 膀胱がん
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膀胱癌は膀胱粘膜より発生する悪性疾患で、我が国では10万人あたり年間7.6人が膀胱癌に罹患し(2002年統計)、男性に4倍多く発生しています。死亡率は年間10万人あたり2.2人と報告されています(2005年統計)。 膀胱癌発症の危険因子として、喫煙(喫煙者は非喫煙者の2-4倍の発症率)、化学物質(化学染料に含まれる芳香族アミン類)等が指摘されています。エジプトのナイル川流域の寄生虫による風土病が引き起こすことも知られています。
自覚症状は排尿時痛を伴わない無症候性肉眼的血尿が大半を占め、この症状で受診された方の13-28%が膀胱癌と診断されています。次に多い症状は頻尿、排尿時痛などの膀胱刺激症状です。これらの症状が出た場合は膀胱鏡検査や腹部超音波検査での診断が必要です。尿細胞診検査も補助診断となります。膀胱癌の診断を受けた場合、上部尿路といわれる腎尿管も精査が必要です。まれに腎盂癌・尿管癌を合併していることがあります。また進行癌の場合、CT、RI等で転移の有無を調べる必要があります。
膀胱癌は内視鏡的治療(経尿道的膀胱腫瘍切除術)により採取した腫瘍組織を病理学的に確認し確定診断をおこないます。癌が膀胱筋層まで浸潤していた場合、内視鏡的治療では不十分であり、膀胱の摘出を考慮しなければなりません。非浸潤性の膀胱癌であっても、膀胱癌は再発率が高く、数ヶ月に一度内視鏡での再発チェックが必要です。(泌尿器科)
- 内視鏡手術ロボット【ダヴィンチ】(前立腺がん)
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当科では従来の開腹による恥骨後式前立腺全摘術に加えて2009年より腹腔鏡下前立腺全摘術を行っています。腹腔鏡下手術は内視鏡で観察しながら行う手術の事で、お腹に大きな創を作ることなく、小さな穴を5~6箇所開けて直径5~12mmのトロカーと呼ばれる筒状の器具を通して行う、体に負担が少なくてすむ手術です。内視鏡で観察しながら行いますので、肉眼よりは拡大視野で行うためにより、細かい手術が可能となっています。尿失禁に関係する尿道括約筋や勃起神経の温存が可能です。開腹手術に比較して出血量も極めて少なくなっています。傷の治りが早く術後の痛みが少ないため術後回復が早いことが特徴で、入院期間は10日から2週間ぐらいの期間です。当科では2009年よりこの手術を導入し行ってきましたが、2011年は開腹手術より腹腔鏡下手術の割合が上回りました。
今後、開腹手術は局所で進行した癌だけに限られる手術となっていき、腹腔鏡手術が大半になっていくことが予想されていましたが、今年の診療報酬改定に伴い医療用ロボットを使った手術が保険で行うことが可能となりました。
前立腺がんの手術治療 開腹手術から腹腔鏡手術、さらにロボット手術へ(全文はこちら)米国において2000年に認可され、2006年以降欧米では急速に適応症例を伸ばし、現在では前立腺摘出術の80%以上がこのロボット支援手術になっています。
腎臓
- タンパク尿(たんぱくにょう)
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大半の腎臓病は検尿異常、特にタンパク尿で発見されます。高血圧や糖尿病が長く続き、腎臓に病変が及ぶと、尿にタンパクが出るようになります。これは腎臓だけではなく、カラダ中の動脈硬化がかなり進行した状態を表す指標です。
一方で、腎臓だけに病気が起こり、タンパクや血尿が現れる”腎炎”と言う病気があります。一口に”腎炎”と言っても、色んな種類があります。小児に多い急性腎炎は治癒することが多いのですが、成人の大半は慢性腎炎です。慢性腎炎と言っても、増殖性、膜性、膜性増殖性、その他、様々な腎炎の総称です。
だから、尿タンパクが2+(プラス)といっても、入院して検査しないと治療法も決まりません。逆に検査を受けて、治療すれば治癒しないまでも、透析を必要とする腎不全にまで進行させない治療法が有ります。このため、透析に入る患者数は増加している反面、腎炎で透析に入る患者数は減少しています。日本では、毎年検尿を受ける機会がありますが、受けておられない方も多く、受けてタンパク尿を指摘されても、無症状であることから、放置されていることが多く、他の病気で検尿を受け、いつからタンパクが出てますか?と質問されても正確に答えられる方の少ないのが実情です。タンパクが現れたら、早く検査を受けて、治療するのが有効です。長く放置している場合には、治療に難渋し、効果も少なく、ついには透析が必要となってしまう事も有ります。”タンパク尿”と言われたら、まず腎臓専門医を受診される事をお勧めします。(腎臓・高血圧内科)
- 高血圧(こうけつあつ)
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体内では、すみずみまで酸素や栄養素を運ぶ血管が走っています。この血管の中に、心臓と言うポンプで血液が押し流されています。この血管の中の圧力が”血圧”です。すなわち血圧は、心臓から流れ出る血液の量(心拍出量)と血管の収縮(末梢血管抵抗)のかけ算で決まります。ドキドキする様な場合にはアドレナリンなどが出て、心拍出量と末梢血管抵抗が上昇し血圧は上がりますが、一時的な現象であり、高血圧とは呼びません。一般に末梢血管抵抗が上がり続けると、血液の塩分や水分が尿に出て心拍出量が減少し、上がった血圧は元に戻ります。しかし尿を作る腎臓が、様々な要因で塩分や水分を排泄する能力が低下すると、高血圧が持続し”高血 圧症”という病気になります。ですから腎臓が高血圧の原因と言っても過言ではありません。腎臓の働きの悪い患者さんの大半が高血圧症を呈し、塩分を減らすと血圧が低下する訳です。
高い血圧が血管というパイプに高い血圧が掛かり続けると、血管が硬くなり、詰まり、動脈硬化を起こし、心筋梗塞や脳卒中などの血管病の原因となります。また腎臓には非常に多くの血管が走っているため、腎臓も悪くなり、悪循環を来します。最も重要な治療は塩分制限です。これでも下がらない時には薬のお世話になります。目標とする血圧は年齢や合併症によって異なり、使用する薬の種類も異なります。また一部の患者さんでは、血圧を上げるホルモンの異常などの原因が見つかる事も有りますので、薬を飲み始める前に、この様な病気が無いかをチェックする必要が有り、まずは専門医の受診をお勧めします。(腎臓・高血圧内科)
- 慢性腎臓病(まんせいじんぞうびょう)
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最近、慢性腎臓病(CKD)という病名をよく耳にします。毎年3月の第二木曜は世界腎臓デーにも指定され、様々な啓蒙行事が行われています。そもそもCKDは腎臓専門医ではなく、心臓病や脳卒中を扱う循環器医が名付けた病名です。何故でしょう?心臓病や脳卒中で病院にやって来る患者さんを調べると、尿タンパクが出ているとか、腎臓の機能が低下している腎臓病の患者さんが非常に多い事に気づいたのです。糖尿病や高血圧で尿タンパクが出ると、動脈硬化がかなり進行している証拠です。他の原因で腎臓の働きが低下すると高血圧、貧血など血管病に繋がる要因が急増します。もちろん、CKDはその名の通り腎臓病ですから、放置すると透析を要する様な腎不全に進行するリスクも非常に高いのです。3ヵ月以上尿タンパクが陽性であるか、腎機能が正常の60%未満(血液検査だけで簡単に判る)であればCKDです。驚いた事に、日本でもCKD患者数が約1,300万人にのぼる事が報告されています。
一方で、早期に発見し治療を行えば、進行をストップできる場合が多く、改善する事も知られています。早期発見のためにも、毎年検尿や血液検査が必要なのです。(腎臓・高血圧内科)
- 浮腫(ふしゅ:むくみ)
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体重が増加しても、浮腫と肥満は、全く違います。浮腫は体の水分が異常に増加した状態であり、肥満とは脂肪分が増えることです。これを区別するには、むくんでいると思われる部分、特に足のすねを10秒くらい強く指で押し付けてみましょう。へこみが出来れば、浮腫です。肥満の場合にはこのようなへこみは出来ません。また、ひどい浮腫の場合には3~4日で10kgも体重が増加することもありますが、肥満の場合にはここまで極端な事は有りません。
浮腫の特徴は、軽い場合には、朝顔がはれぼったい、夕方になると足がむくんで靴が窮屈になる、といった症状が現れます。また、朝に比べて夕方の体重が増えていることが多く(1kg程度は正常です)、飲んだ水分の量に比べて尿の量が少なくなります。体がむくむとどうして悪いのでしょう。
夕方になると靴が履きにくい、歩きにくいなどの症状で困ることがあります。また、特に女性で顔のむくみを異常に気にされる場合もあります。しかし、このようなむくみ自体にあまり大きな弊害はありませんが、浮腫の原因となっている病気が問題です。軽いむくみでも、その原因に、ネフロ-ゼ症候群や腎不全などの腎臓病や、心不全や肝硬変と言った重い病気が見つかるかも知れないからです。
一方、全身がむくむような重症な場合には、足や顔だけではなく内臓全体がむくみ、内臓がうまく働けなくなります。特に、肺がむくむと、呼吸による酸素と炭酸ガスの交換が出来なくなり、呼吸困難となり、重篤な場合には生命にかかわることもあります。このような場合には、むくみ自体が非常にこわい症状につながります。(腎臓・高血圧内科)
- 慢性腎不全(まんせいじんふぜん)
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腎臓の働きが低下した状態を慢性腎不全と呼びます。慢性腎不全に至る原因はさまざまで、治療法も原因によって異なる場合があります。慢性腎不全が進行すると透析や腎移植が必要となります。透析を始める原因となる病気のトップは糖尿病性腎症、以下、腎炎、高血圧性腎硬化症、のう胞腎、膠原病と続き、病状もさまざまです。患者さんにとって最も難渋するのが食事療法でしょう。特に塩分摂取量の多い日本では、塩分制限が困難なことの多いのが実情です。しかし、大半の患者さんは塩分制限を必要としますが、ごく稀に塩分制限が逆療法となる場合もあります。塩分喪失性腎炎と言う病気で慢性腎不全となった場合、塩分を適切に補充しないと、腎不全が悪くなる所か、意識が無くなってしまうこともあります。
また血圧が低い程、腎不全の進行を遅らせることが知られていますが、既に動脈硬化の強い患者さんでは、血圧を下げすぎると、脳の血流が低下し”ふらつき”の原因となるばかりか、脳の血管が詰まって脳梗塞の原因となります。慢性腎不全だからといって、その原因や病状に応じた治療を行う必要があり、まずは専門医を受診し、適した治療を習得することが重要です。(腎臓・高血圧内科)
- 透析(とうせき)
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慢性腎不全が進行し、自分の腎臓だけでは命を保てない状態を末期腎不全を呼びます。この際には透析や腎移植が必要となります。 一昔前までは、”透析に入ったら終わりや”と言われていました。実際5年間生存するのがやっとで、50歳以上、あるいは合併症の多い糖尿病患者さんは透析できない、という状況でした。
しかし、医学の進歩は著しく、2009年末で最長41年8ヵ月に達し、20年以上生存している患者さんが2万人以上おられます。また、これから透析を始める患者さんの平均年齢は67.3歳、男性では70~75歳、女性では75~80歳が最も多く、合併症の多い糖尿病の患者さんが全体の44.5%でトップとなっています。また透析の方法にも、通常の血液透析に加え、腹膜透析、これを併用する方法、血液透析を自宅で行う在宅血液透析、など様々な方法が保険で認められています。血液透析とは、動脈と静脈とをつないだシャントと呼ばれる血管に針を刺し、血液をチューブで体外に流し、ダイアライザという装置で毒素などを除去し、きれいになった血液を体内にもどす方法で、約95%の患者さんがこの方法を選んでいます。腹膜透析とは、お腹の中にきれいな液を出し入れして毒素などを除去する方法です。両者には一長一短が有りますので、自分のライフスタイルに合わせて選ぶことができます。(腎臓・高血圧内科)
- ネフローゼ症候群(ねふろーぜしょうこうぐん)
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ネフロ-ゼ症候群は正確には病名ではありません。症候群とは、いくつか同じ症状が揃った時に使う言葉です。では、ネフローゼ症候群とは?
尿タンパクが1日3.5g以上(正常は0.2g以下)を呈し、血液の中で最も多いアルブミンと言う蛋白質が3.0g/dL以下(正常は4.0g/dL以上)に低下し、むくみ(浮腫)が現れる、と言う共通の症状が見られる場合をネフロ-ゼ症候群と呼びます。治療法が難しいため、専門医の診療を受けるべきです。ネフローゼ症候群の原因としては、慢性腎炎、糖尿病性腎症、膠原病など、様々な病気があります。むくみを取る治療は、原因にかかわらず共通ですが、尿タンパクを減らす根本治療は、当然原因によって異なります。 慢性腎炎の場合には副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)が有効なことが多く、特効薬的な存在ですが、ステロイドには副作用が多く、糖尿病を起こすこともあります。ですから糖尿病性腎症の場合にステロイドを使うと、効かない所か、糖尿病自体も悪化し、下手をすると生命にかかわります。全く逆療法です。
近年、糖尿病性腎症が非常に増加しており、ステロイドの様な特効薬が無いため、むくみがひどくならないように、毎日厳密な塩分制限を指導されて生活せざるを得ないことが多いのが実情です。ネフローゼ症候群にステロイドが有効と聞きつけて間違って服用したり、ステロイドが含まれている民間薬を購入したりするケースも多いのです。”君子、危うきに近寄らず”です。(腎臓・高血圧内科)
- IgA腎症(あいじーえーじんしょう)
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慢性腎炎の中で最も頻度の高い(30%以上を占める)のがIgA腎症という病気です。腎臓の組織検査(腎生検)を行って初めて診断されます。腎臓の糸球体と呼ばれる尿を濾し出す部分に、免疫グロブリンの一種であるIgAが沈着して起こる病気です。
細菌などの抗原が体に入り(特にのどや腸)、これに対する抗体としてIgAが異常に産生されることが原因と考えられていますが、原因となる抗原はわかっておらず、残念ながら現時点では原因不明と言わざるを得ません。最近では扁桃炎との関連が注目されています。
IgA腎症の大半は無症状なため、検尿でタンパク尿や血尿を指摘されて発見される患者さんが大半です。中には扁桃炎などの感染に伴って肉眼的血尿(コーラ色の尿)が出現して発見される場合もあります。
従来はIgA腎症は進行しないことが多い、比較的良性の腎炎と考えられていましたが、腎生検が普及するにつれ、必ずしも予後は良いとは言えず、20年後には約40%が腎不全になることが判ってきました。また、病状は時期によって変ることも注意が必要です。腎生検を行った時点では活動性は低いと考えられても、数年後には非常に活動性の強い病変に変わることもあり、油断の出来ない病気です。定期的な検尿や血液検査はもちろん、再度腎生検を行い、活動性を監視する必要があります。活動性が強い場合には、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)療法が有効な場合が多く、扁桃摘出術も有効である患者さんも多いことが知られています。治療法の進歩で、早く発見されれば、腎不全への進行を遅らせることが可能で、事実、腎炎から透析に入る患者数は減っています。(腎臓・高血圧内科
- 糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)
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日本には糖尿病、あるいはその予備軍の患者数が2,000万人以上もいます。しかも、健診を受けないため自分が糖尿病であることも知らない、知っていても治療を受けていない患者の割合が50%、すなわち1,000万人は放置状態です。
糖尿病で血糖の高い状態が10年以上も続くと、全身の動脈硬化が進行し始めます。腎臓に病気が及ぶとタンパク尿が出はじめ、ネフロ-ゼ症候群を呈する場合もあります。最終的には腎臓の働きが低下して、慢性腎不全となり、透析や腎移植が必要となります。2009年に透析を始めた患者37,543名の内、実に44.5%が糖尿病性腎症であり、さらに増加する傾向にあります。
糖尿病であっても血糖さえきっちりコントロールすれば、腎症は予防できます。
一方、検尿のテープで、+(プラス)以上タンパクが出始めると、病気がかなり進行している事が多く、進行をある程度遅らせることは出来ても、もとに戻すことは困難です。できるだけ早く発見する事が重要ですが、その指標の1つに微量アルブミン尿があります。微量アルブミン尿とは、検尿テープでは尿蛋白は陰性の時期に、テープより感度の高い特殊な方法で調べ、アルブミンという蛋白が正常よりたくさん出ている場合を言います。
微量アルブミン尿の時期には血糖を厳密に管理することによって、腎症が治る可能性があることから、糖尿病の患者さんにとっては大変重要な時期です。糖尿病の患者さんで尿検査を行うのは、尿の糖を調べるより、微量アルブミンを調べるのが目的です。(腎臓・高血圧内科)
- 漢方薬腎症(かんぽうやくじんしょう)
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我々が口から食べたり飲んだりしたものは、全て尿か便に出ます。水に溶けた物質の多くは腎臓を通って尿に出ます。
薬の中には、腎臓に傷害する物もたくさんあります。医師が処方する薬は、作用とともに副作用も調べられています。腎臓に悪い、例えば、ある種の鎮痛剤などを使う場合は、高齢者などのリスクの高い患者さんに使用する際には、量を加減したり、水分をたくさん飲むように指導するなどの注意を払います。しかし痛いからと言って、たくさん服用して腎臓を悪くする場合も多いのです。
漢方薬は副作用が無い、との迷信も有ります。
漢方薬の多くは、”薬”として我々医師が処方します。本来、漢方薬は患者さんの体質に対して適切な薬が処方されます。しかし、漢方による医療を本格的に行っている施設は多くありません。漢方薬にも当然、作用と副作用があるのです。
日本をはじめ世界中で、アリストロキア酸という成分を含んだ漢方薬を飲んで腎不全になった患者さんがたくさん出現し、チャイニーズハーブ(漢方薬)腎症と呼ばれています。このアリストロキア酸は腎臓を傷害して慢性腎不全をひき起こすばかりか、尿路の細胞のDNAを傷害し、尿路の癌まで起こす怖い物質です。
ビタミンくらいは良いだろう!と思われますが、ビタミンCを飲み過ぎて、腎臓を悪くした例も報告されています。
薬やサプリメントを服用する際には、主治医とよく相談しましょう。(腎臓・高血圧内科)
産婦人科
- 子宮鏡による子宮筋腫の治療
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おなかを切らずに、子宮筋腫だけを削り取ってしまう手術があると聞きましたが、どんな手術ですか?
レゼクトスコープという内視鏡(子宮鏡の一種)を使って、膣から子宮のなか(子宮内腔)をのぞきながら、ここに飛び出した子宮筋腫を電気メスでえぐりとるように削る手術です。
下の写真は、レゼクトスコープで子宮の中を観察しているところです。正面に見えるU字型の針金が電気メスで、ここに通電することで組織を切断することができます。器具の直径は約8mmです。子宮鏡手術の利点は何ですか?
・ 子宮を残したまま子宮筋腫の治療ができる。
・ おなかを切る必要がない。
・ 入院期間が短い(術後1日~2日)。
・ 手術による妊娠率の向上が期待できる。
・ 術後妊娠した場合、帝王切開分娩が必要になる可能性が、開腹手術に比べて少ない。どんな子宮筋腫でもこの方法で手術することができますか?
子宮内腔から子宮筋腫を削りますので、手術できるのは、粘膜下筋腫と言って、子宮の内側へ向かって飛び出しているようなタイプの筋腫だけです。
粘膜下筋腫の場合でも、飛び出しが弱く、子宮の筋肉の中に埋まりこんでいるようなものでは、手術が困難であったり、何度かに分けて手術しなければならないことがあります。
直径8mmの器具をつかった手術ですので、あまり大きな筋腫になると、手術が困難になります。 粘膜下筋腫は、小さなものでも月経時の出血が多くなったり、月経が長引いたりという症状が激しくでて、治療が必要な場合が多くあります。
このような粘膜下筋腫に対して、子宮をとらずに治療したい場合には、子宮鏡による治療が最も適した治療法であることが多くあります。月経の量が多く、貧血があり、子宮筋腫があると言われましたが、子宮鏡手術を受けられますか?
子宮筋腫の場所、大きさ、あなた自身の治療に対する希望や条件などから、子宮鏡手術が適しているかどうかを判断する必要があります。主治医の先生とご相談のうえ、検査データを持って、まずはご相談ください。
当院では、年間約50例の子宮鏡手術を行っております。また、日本産婦人科内視鏡学会(http://square.umin.ac.jp/jsgoe/ninteii_list.html)では子宮鏡手術の技術認定医の審査を行っており、現在全国で約25名の技術認定医が活躍していますが、当院には技術認定医が在籍し、手術の指導に当たっております。子宮鏡手術に危険性は無いのですか?
ほかの医学的治療と同様に、100%安全とは言えません。次のような、この手術特有の合併症があります。この治療を受けることによるメリットとデメリットについて説明をよくお聞きの上、治療法をお決めください。
(1) 子宮穿孔
筋腫を削る際に、正常筋層にまで削り込んで子宮に穴が開くことがあります。文献的には5%の頻度で起こるとされていますが、筋腫の大きさや位置によって危険性は異なります。穿孔した場合、多くは開腹の上穿孔部の修復が必要になります。
(2) 水中毒
子宮内を操作する際に、ソルビトールという糖液を環流しながら処置を行います。この液体自体には毒性がありませんが、筋腫の切除部分から急激に大量に体内に吸収されることがあり、体内の水分量が多くなりすぎ て、水中毒を引き起こす可能性があります。重症の場合、意識障害やけいれんを引き起こし、死亡する可能性もあります。このようなことを避けるために、かん流液の使用量と、回収量を計測しながら手術を行い、吸収量が多くなった場合には、その時点で手術を終了することにしています。(産婦人科) - 子宮筋腫の治療
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子宮筋腫があると言われましたが、治療しなければいけないのですか?
40代の女性では、約40%の方が、詳しく調べると子宮筋腫を持っています。子宮筋腫は子宮の筋肉の中にできる良性の腫瘍で、閉経して女性ホルモンが分泌されなくなると、だんだんと小さくなります。
したがって、子宮筋腫があっても、症状がなければかならずしも治療する必要はありません。
しかし、知らない間に急激に大きくなったり、貧血が進行したりすることがありますので、子宮筋腫がある場合には、一定期間ごとに婦人科で診察を受けて、状態の変化をチェックすることが必要です。子宮筋腫の治療をしなければいけないのはどんな場合ですか?
以前は、子宮が大人の握りこぶしよりも大きくなっている場合は、治療の対象になるとされていましたが、さまざまな診断方法の進歩により、治療を必要とする子宮筋腫の割合は低下しています。しかし、次のような場合には治療が必要です。
① 月経時の出血が多く、貧血が進行したり、生活に支障を来たす場合。
② 筋腫が非常に大きくなって、圧迫による症状がある場合。
③ 急激に大きくなったり、痛みがある場合。
④ 妊娠や分娩に妨げになると考えられる場合。子宮筋腫にもいろいろな種類があるのですか?
子宮筋腫のできる場所によって、①漿膜下筋腫、②筋層内筋腫、③粘膜下筋腫の三つに大きく分類されます。①よりも②、②よりも③のほうが、子宮内腔を変形させやすい性質を持っています。
子宮内腔が変形すると、月経時の出血の増加をひきおこしやすくなりますので、①よりも②、②よりも③のほうがより小さな筋腫でも症状をひきおこします。
①漿膜下筋腫では、直径10cmをこえるような筋腫があっても、何の症状もなく、経過観察だけをしている方もたくさんいらっしゃいますし、③粘膜下筋腫の場合には、直径1cmの筋腫でも、過多月経や貧血のために治療が必要なことがよくあります。子宮筋腫がガンになることはないのですか?
子宮筋腫と子宮ガンはまったく別の病気ですので、筋腫があるからガンになりやすいということはありません。
しかし、大きな子宮筋腫があるために、内診や超音波がわかりづらくなって、子宮体癌や卵巣腫瘍が発見しにくくなる可能性はあります。
また、非常に珍しい病気ですが、子宮肉腫という子宮筋腫に似た悪性腫瘍があります。子宮肉腫は手術を行って、摘出した筋腫を調べない限り診断することができません。しかし、非常にまれな病気であるため、単に子宮筋腫があるからというだけでは、子宮肉腫を恐れて手術をするメリットはないとされています。ただし、閉経後にもかかわらず筋腫が増大する場合や、閉経前であっても急激な増大を認める場合には、子宮肉腫の可能性を否定するために手術をお勧めする場合があります。子宮筋腫の治療は手術しなければいけませんか?
子宮筋腫だからといって手術をする必要がない場合も多くあります。また、手術以外の治療法もいろいろと開発されています。ただし、手術が最も望ましい場合も多くありますので、主治医とよく相談して治療方針を決定することが大切です。子宮筋腫の治療法にはどんなものがありますか?
次のようなさまざまな方法があります。
(1) 子宮をとってしまう方法 (子宮摘出術)
① 腹式手術
② 膣式手術
③ 腹腔鏡手術
(2) 子宮を取らない治療方法
(ア) 子宮温存手術 (子宮筋腫核出術)
① 開腹手術
② 腹腔鏡手術
③ 子宮鏡手術(レゼクトスコープ)
(イ) 薬物療法 (偽閉経療法)
(ウ) 子宮動脈塞栓術 (健康保険適応外)
(エ) 超音波破壊術 (健康保険適応外)次に、それぞれの方法についてもう少し詳しく説明します。
(1) 子宮をとってしまう方法 (子宮摘出術)
すでに閉経した方、月経がある方でも今後出産をする可能性のない方の場合は、子宮を取ってしまう手術をお勧めします。子宮筋腫を取り残したり、術後に再び子宮筋腫ができる可能性がなく、もっとも確実な治療方法だからです。閉経している方の場合は、すでに卵巣はその役割を終えていますので、両方の卵巣を同時に摘出することをお勧めします。
月経がある方の場合には、卵巣に異常がない限り、摘出することはありません。子宮を摘出しても卵巣は正常に働いて、女性ホルモンの分泌を続けますので、子宮を取ることによる体調の変化はありません。
子宮がなくなりますので、月経はなくなりますが、膣の分泌物は変化しません。膣の長さはほとんどかわらないか、場合によってはやや長くなりますので、性行為にも変化はありません。
子宮を取る場合に、もっとも傷が小さくてすむのは、②膣式手術です。膣の奥を切開して、引き抜くようにして子宮を摘出する方法ですので、見える場所には傷は残りません。しかし、膣の中という狭い場所で手術をしなければなりませんので、お産を経験したことのない方に手術をするのは困難です。また、子宮が大きかったり、可動性が悪い場合も手術が困難です。過去に下腹部の手術をされた経験があったり、その他の理由で子宮のまわりの癒着の可能性が高い場合にも、この手術方法は行いません。この方法で手術を開始しても、手術操作が困難なために、開腹手術に切り替える場合があります。
大きな子宮や癒着がある場合でも傷を小さくして手術が可能な方法として③腹腔鏡手術があります。お腹に3、4箇所の穴をあけて、ここからおなかの中を覗きながら子宮を取るための操作を行い、膣式手術の補助をします。
理論的には非常に大きな筋腫でもこの方法でとることができますが、取った筋腫は膣から外に出さないといけないので、ある程度の制限があります。また、①②の手術に比べて手術時間は長くなります。
おなかを切開して手術をするのが①腹式手術で、もっとも標準的な方法です。腹壁の傷は数ヶ月でほとんど目立たなくなる場合も多くありますが、体質によっては盛り上がって治ることもあります。(2) 子宮を取らない治療方法
将来の妊娠出産を希望している方が、子宮筋腫の治療を必要とする場合の治療法の選択肢はかなり限られます。原則的には手術によって子宮筋腫だけをくりぬくように取り除いて、そのあとの子宮をきれいに縫い合わせて形成します。これが子宮筋腫核出術です。この場合も腹腔鏡手術で行うほうが術後の癒着など、妊娠に対する影響を小さくできると考えられていますが、筋腫の場所や大きさ、数によって開腹手術にせざるを得ない場合が多くあります。
粘膜下子宮筋腫は、小さなものでも症状が強くあらわれることが多いことは、先に書きました。これを通常の手術によって取り除こうとすると、子宮の壁を深く傷つける必要があり、術後の妊娠の場合、多くの場合は帝王切開が選択されます。これを子宮鏡を使って、子宮の内側から削り取ってしまうのが、③子宮鏡手術(レゼクトスコープ)です。子宮穿孔などの特有の合併症もあり、手術可能な症例も限られますが、この方法での手術は、腹壁はもちろん、子宮自体にもほとんど傷をつけることなく症状を劇的に改善することができます。(→子宮鏡手術のページへ)
将来の妊娠、出産の可能性はないが、子宮を残したい、あるいは手術はいや、という方の場合、選択肢はもう少し広くなります。(産婦人科) - 妊娠中の服薬・特に解熱剤について
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妊娠中や授乳中にお薬を飲むことは、おなかの中の赤ちゃんに影響を与える可能性がありますので、普段以上に慎重になっていただくことが大切ですし、多くの方はとても気をつけていただいています。
しかし、病気の治療のためにお薬を使うことは、お母さんの健康を守るためにどうしても必要な場合も多くありますし、お母さんの病気が赤ちゃんに悪い影響を与えることも考えられますので、お母さんが薬を使わないことがどんな場合にも最善の選択肢ではありません。
たとえ妊娠中であっても、普段から飲んでいるお薬を自分の判断で減らしたり、内服を中止したりすることは絶対にしないでください。
慢性的な病気のために普段からお薬の内服を必要とされている方は、できれば、妊娠する前に、主治医や産婦人科の医師に相談して、お薬を飲みながら妊娠しても良いのかどうか、妊娠した場合に薬の内容を含めて、治療をどのように行っていくのかをあらかじめ相談する様にしましょう。
普段健康な方でも、風邪などで熱が出た場合などに、市販の風邪薬や解熱剤を内服されることが多いと思います。このような方でも、妊娠された場合には、薬に対する不安から、解熱剤の使用を控えられる方が多いのではないでしょうか。
しかし、妊娠初期にお母さんが高い熱を出した場合、そのこと自体が、赤ちゃんの奇形(神経管障害、口唇口蓋裂、腹壁破裂など)と関連する可能性があることをご存知でしょうか?
妊娠、出産は病気ではありませんが、自然の経過に任せることが最善の方法ではありません。 大人にとって100%安全と言える薬がないのと同じように、赤ちゃんに対して100%影響がないと言える薬はほとんど存在しません。しかし、もっとも一般的な解熱剤の一つであるアセトアミノフェンは、ほとんどの方が妊娠中でも安全に使用することができ、妊娠初期の発熱に対して適切に使用することで、発熱による胎児の奇形が生じる可能性を減らすことができることが、証明されています。
妊娠中の発熱については、他の体調不良と同様に、原因を明らかにして、早期に適切に対処することが重要です。妊娠中の薬は良くないと決め付けるのではなく、お母さんと赤ちゃんにとって最良の選択を考えていただくようにお願いします。(産婦人科)
- 子宮頚癌とワクチン
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1 子宮頸癌
子宮頸癌は子宮頸部(子宮の入り口)から発生する癌のことを言います。20-40代の女性に多く見られる癌です。一方、子宮体癌は子宮の内膜から発生する癌のことを言い、50-60代に多い癌です。
子宮頸癌は20-40代女性の癌の中では最も多く見られる癌として知られています。現在は年間約15000人の女性が罹患し、3500人の方が亡くなられています。2 子宮頚癌と検診
子宮頚癌はその前段階の病変(異形成)を確認することができるため、検診により予防できる癌の一つです。したがって、検診はこの癌の予防にとって非常に重要な役割を持っており、海外では70-80%と高い検診率ですが、日本では約20%の検診率と先進諸国の中でも最も低い検診率となっています。3 異形成
子宮頚癌の前段階の異形成には軽度から中等度、高度と段階が定義されています。高度の場合には放置すると高い確率で癌に移行していきます。したがって、高度異形成と診断された場合には治療の対象となります。ただし、この時点で見つかれば子宮の摘出ではなく、円錐切除術により、子宮の温存が可能となります。
軽度異形成では数%が中等度異形成へと変化しますが、多くは正常な状態へと回復します。中等度異形成は約半数が高度異形成へと変化すると考えられています。4 子宮頚癌の治療方法
子宮頚癌の治療方法はその進行期により大きく異なります。
前癌病変である異形成には通常は円錐切除術による子宮膣部の切除を行います。子宮そのものは温存されるため、その後の妊娠も可能です。
子宮頚癌と診断された場合、ごく初期の状態であれば、希望により子宮の温存が可能です。しかし、初期でも少し進んだ状態では子宮に加え、骨盤内のリンパ節の切除なども必要となります(広汎子宮全摘出術)。広汎子宮全摘出術後には合併症に排尿障害や、腸閉塞などが考えられます。子宮に加え、一般に卵巣の摘出も行うため、閉経の状態となります。
さらに進んだ手術困難な状態では放射線治療と抗がん剤による化学療法を併用します。治療の合併症として排尿障害、腸炎、骨髄抑制などがあります。
発見時期が少し違うだけで、治療内容やその後の状態に大きな違いがある疾患です。5 子宮頸癌とヒト乳頭腫ウイルス(HPV)
子宮頸癌の原因は長く議論されてきましたが、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の感染が子宮頸がんの発生に大きく関わっていることが判明してきました。
HPVは女性の80%以上が感染する感染症で、イボの原因になるものや子宮頸癌などの癌の原因となるものなど様々なタイプが知られています。その中で子宮頸癌の発生とかかわるタイプのものは15種類知られています。
特に多く検出されるタイプは16型と18型の2種類で、2種類を合わせると子宮頸がんのうち60-70%の患者に検出されると言われています。6 HPVワクチン
ワクチンとは無毒化した病原体を投与し、免疫機能を介して、次に侵入してきた病原体に対してすぐに対応できるようにし、感染を防ぐ目的の薬剤のことです。
HPVのワクチンはすでに海外では数年前から使用が開始されており、主に10代の女性を対象に予防接種を行っています。
わが国では昨年よりHPVワクチンが認可され、投与することができるようになりました。現在、わが国で認可されているワクチンは最も多く検出される16型と18型に対して効果を発揮します。したがって、全体の60-70%のウイルスの感染を予防することとなります。最近では他の型のウイルスの一部も予防することが判明しており、それらを加えると、全体の90%前後のウイルスの予防が可能ではないかと期待されています。
予防の期間に関しては現在のところ8.4年間は持続することが判明していますが、計算では少なくとも20年は予防効果が持続するとされています。7 さいごに
子宮頸癌は前癌病変である異形成が診断できる癌です。したがって、定期的な検診により、その段階に発見することが可能です。また、現在ではワクチンにより予防できる数少ない癌です。この二つを併用し、予防に努めることで、子宮頸癌から確実に身を守ることが可能となります。我々はご覧の皆様が、ワクチンを接種し、さらに検診に努めていただけることを心から願っております。(産婦人科) - 性感染症
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① 性器カンジダ症
女性性器感染症では日常頻繁に見られ、女性に特有な疾患(男性での罹患例は少ない)。原因菌としてはカンジダというカビの一種。診断は、外陰および膣内においてカンジダが検出され、かつ、痒み感、おりものの増量(酒かす状、かゆ状、ヨーグルト状)などの自覚症状や、外陰・膣の炎症を認めた場合にカンジダ症とされる。単にカンジダを保有しているだけではカンジダ症と診断されず治療の必要はない。セックスパートナーの治療は必要ない。② トリコモナス膣炎
膣トリコモナスという原虫によるもので、症状には悪臭の強いおりもの感、強いかゆみ、ひりひり感、痛みなどがある。おりものは漿液膿性(さらさらして膿みが混じった)淡黄色で泡沫状(泡っぽい)である。外陰部は発赤し、膣壁もまた発赤・充血する。膣壁の発赤はしばしば斑点状である。これが診断された場合は膣剤や内服薬での治療を必要とする。ピンポン感染をきたすので、セックスパートナーも同時に必要である。③ クラミジア感染症
近年、性感染症の中で一番多い。特に若年層(16歳~25歳)で明らかな上昇が認められる。クラミジアに感染すると、1~3週間後に子宮頸管炎がおき水様性帯下として症状を呈することがあるが、一般的には自覚症状に乏しく、無症候性(症状がない)で、放置されることもおおい。子宮頸管の感染が上行性に進展して、子宮付属器炎、骨盤腹膜炎などの骨盤内炎症性疾患(PID)を引き起こすと、子宮外妊娠や不妊症の原因となる。上腹部に波及すると、肝周囲炎により強い腹痛を呈する。妊婦のクラミジア感染症は絨毛膜炎を誘発し、子宮収縮を促すことになり、流早産の原因となることもある。分娩時には母子感染で新生児結膜炎や肺炎も起こす。ピンポン感染を防ぐためにセックスパートナーも同時に治療しなければならない。
クラミジアに感染しているとHIV(エイズウイルス)、HPV(ヒトパピローマウイルス)に感染しやすいといわれている。④ 淋菌感染症
淋菌による感染症であり、子宮頸管炎や尿道炎をおこすが、自覚症状は乏しく、症状がある場合は、大量の黄色・黄緑色の帯下(おりもの)や、外陰部と膣には発赤、腫脹(腫れ)がみられる。また重症例では骨盤内炎症疾患を生じる。本邦での頻度は低いものの、淋菌の菌血症から全身性に拡散するは播種性淋菌感染症も引き起こす場合がある。女性では腹膜炎を合併し肝周囲炎を起こすこともある。また、産道感染により新生児に結膜炎を引き起こす。1回の性行為で感染する確率は30%程度と高い。淋菌感染症と診断された場合は速やかに治療する。セックスパートナーは必ず検査を行い、治療しなければならない。自覚症状が欠ける場合があるため、放置することにより、子宮外妊娠、不妊症、母子感染など、重篤な合併症を生じうる。最近は抗生剤に対して耐性菌が増加しており、個々の淋菌感染症に対して抗生剤の選択が重要である。⑤ 梅毒梅毒トレポネーマによる感染症で、主として性行為または類似の行為により感染する。一般的に、皮膚や粘膜の小さな傷からトレポネーマが進入することによって感染し、やがて血行性に全身に散布されて、さまざまな症状を引き起こす全身性の慢性感染症である。胎児が母体内で胎盤を通して感染したものを先天梅毒とよび、それ以外を後天梅毒と呼ぶ。さらに、皮膚、粘膜の発疹や臓器梅毒の症状を呈する顕症梅毒と、症状は認められないが梅毒血清反応が陽性である無症候梅毒とに分けられる。セックスパートナーが第1-2期(この時期が感染しやすい)の顕症梅毒または感染後1年以内の無症候梅毒と診断してから90日以内に性的交渉があった場合には検査が必要である。感染後1週間から13週間で発症する。
A,顕症梅毒
1)第1期梅毒
感染後約3週間すると、トレポネーマの進入した部位に、小豆大から示指頭大までの軟骨様の硬さをもつ硬結が出てくる。やがて初期硬結は周囲の浸潤が強くなって硬く盛り上がり、中心に潰瘍を形成して硬性下疳となる。初期硬結、硬性下疳は、一般的に疼痛などの自覚症状はなく、単発であることが多いが、多発することもまれではない。好発部位は、女性では、大小陰唇、子宮頸部である。口唇、手指など陰部以外にも生じることがあり、陰部外初期硬結あるいは陰部外下疳とよばれるが、発症頻度は2-3%以下と低い。
初期硬結や硬性下疳の出現後、やや遅れて両側の鼠径部(股の付け根の部分)などの所属リンパ節が、周囲に癒着することなく無痛性に硬く腫脹してくる。大きさは指頭大で、数個認められることが多く、無痛性横痃(むつうせいおうげん)と呼ばれる。以上の1期疹は放置していても2-3週間で消失し、約3ヵ月後に2期疹が出現するまでは無症状となる。
2)第2期梅毒
トレポネーマ.が血行性に全身に散布されて皮膚・粘膜の発疹や臓器梅毒の症状がみられるものを第2期梅毒という。第2期でみられる発疹は多彩であるが、出現頻度は丘疹性梅毒疹(きゅうしんせいばいどくしん)、梅毒性乾癬(ばいどくせいかんせん)がたかく、これに梅毒性バラ疹、扁平コンジローマ、梅毒アンギーナ、梅毒性脱毛が続き、膿疱性梅毒疹(のうほうせいばいどくしん)は低い。
① 梅毒性バラ疹:駆幹を中心に顔面、四肢などにみられる爪甲大までの目立たない淡紅色斑である。第2期の最も早い時期にみられる症状で、自覚症状もなく数週で消退するため、見過ごされることが多い。
② 丘疹性梅毒疹:感染後約12週で出現する。大きさは小豆大からエンドウ大で、赤褐色から赤銅色の丘疹、結節である。
③ 梅毒性乾癬:角層の厚い手掌・足底に生じた丘診性梅毒疹で、赤褐色から赤銅色の浸潤のある斑であり、鱗屑を伴い、乾癬に類似する。第2期梅毒疹として特徴的な発疹であり、比較的診断しやすい。
④ 扁平コンジローマ:肛門周囲、外陰部などに好発する淡紅色から灰白色の湿潤、浸軟した疣状ないしは扁平隆起性表面顆粒状の腫瘤で、丘疹性梅毒疹の一型である。トレポネーマが多数存在し、感染源となることが多い。
⑤ 梅毒性アンギーナ:びらんや潰瘍を伴い、扁桃を中心として軟口蓋に及ぶ発赤、腫脹、浸軟である。
⑥ 梅毒性脱毛:びまん性と小斑状脱毛がある。小斑状脱毛は、爪甲大から貨幣大の円形、類円形の不完全な脱毛で、虫食い状の脱毛と例えられるように、頭髪がまばらな印象を受ける。
⑦ 膿疱性梅毒診:多発した膿疱がみられる場合で、丘疹性梅毒疹から移行することもある。全身状態が不良または免疫低下の場合にみられることが多い。
第2期では、3ヶ月~3年にわたり上記の発疹などが混じて、いろいろな臨床像を示す。その後、自然に消退して無症候梅毒となるが、再発を繰り返しながら第3期、4期に移行していくことがある。
3)第3期梅毒
感染後3年以上を経過すると、結節性梅毒疹(けっせつせいばいどくしん)や皮下組織にゴム腫を生じてくることがある。第3期梅毒は、現在ではほとんどみられない。
4)第4期梅毒
梅毒による大動脈炎、大動脈瘤あるいは脊髄癆、進行性麻痺などの症状が現れることがある。第4期梅毒も、現在ではほとんどみられない。
B、無症候梅毒
臨床症状は認められないが、梅毒血清反応が陽性のものをいう。初感染後全く症状を呈さない場合や、第1期から2期への移行期、第2期の発疹消退期や陳旧性梅毒などの場合がある。
C、先天梅毒
梅毒から罹患している母体から出生した児で、生下時に肝脾腫、紫斑、黄疸、脈絡網膜炎(みゃくらくもうまくえん)、低出生体重時などの胎内感染を示す臨床症状、検査所見のある症例、または梅毒診、骨軟骨炎など早期先天梅毒症例、乳幼児期には症状を示さずに経過し、学童期以後にHutchinson3徴候(実質性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinson歯)などの晩期先天梅毒の症状を呈する症例をさす。
⑥ 性器ヘルペス
単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus: HSV)1型、2型の感染によって、性器に浅い潰瘍性または、水疱性病変を形成する疾患である。HSVは、性器に感染すると、神経を伝って上行し、腰仙髄神経節を主とし潜伏感染する。潜伏感染したHSVは、何らかの刺激によって再活性化され、神経を伝って下行し、再び皮膚や粘膜に現れ、病変を形成する。発症には、ヘルペスウイルスに初めて感染したときと、すでに潜伏感染していたヘルペスウイルスの再活性化によるときの2種類がある。一般に、前者は病巣が広範囲で症状が強く、発熱などの全身症状を伴うことが多いが、後者は症状が軽く、全身症状を伴うことは少ない。 初めて症状の現れた場合を「初発」といい、初めて感染した場合には「初感染」と呼んで区別している。感染したときは無症状であっても、全身的あるいは局所的に免疫能が抑制されたために潜伏していたヘルペスウイルスが再活性化され、症状が初めて出現する場合があり、これを「非初感染初発」と呼ぶ。さらに、初発ののち症状の出現がしばしば繰り返されることが多く、この場合は「再発」と呼ぶ。
a. 初発
1) 初感染初発
性的接触の後、2-10日間の潜伏期をおいて、比較的突然に発症する。38℃以上の発熱を伴うこともある。大陰唇や小陰唇から、膣前庭部、会陰部にかけて、浅い潰瘍性または水疱性病変が多発する。両側性のことが多いが、片側性のこともある。感染は外陰部だけでなく、子宮頸管や膀胱にまで及ぶことも多い。症状が強いことから、急性型ともいわれる。
疼痛がひどく、排尿が困難で、ときに歩行も困難になる。ほとんどの症例で鼠径(股の付け根)リンパ節の腫脹と圧痛が見られる。2-3週間で自然治癒するが、抗ヘルペスウイルス薬を投与すれば1-2週間で治る。ときに強い頭痛、項部硬直などの髄膜刺激症状を伴うことがあり、また、排尿困難や便秘などの末梢神経麻痺を伴うこともある。
2) 非初感染初発
初感染の場合よりも症状は軽いことが多く、治癒までの期間も短いが、免疫不全患者や高齢者では症状が重い。
b. 再発
再発時の症状は軽く、性器または殿部や大腿部に小さい潰瘍性または水疱性病変を1-数個形成するだけのことがおおい。大体は抗ウイルス薬の投与なしで1週間以内に治癒するが、ときに10日以上に及ぶことがある。再発する前に、外陰部の違和感や、大腿から下肢にかけて神経痛様の疼痛などの前兆を訴えることがある。再発の頻度は、月に2-3回から、年1-2回とばらつきが大きい。頻繁に再発する場合は、心身に多大なストレスを与える。
感染しない予防策は性行為をしないことだが、無症候にときどきヘルペスウイルスが時々排泄していると考えられるので、コンドームを勧めることはあるが、再発の場合は肛門、殿部、大腿部などにも起こりうるので、コンドームの使用だけでは完全に防止できない。妊婦が分娩時に性器ヘルペスを発症すると、ヘルペスウイルスが児に感染し、新生児ヘルペスを発症することがある。新生児ヘルペスの20-30%は、死の転帰をとる予後の悪い疾患である。母子感染のリスクは、初感染で50%と特に高く、再発では0-5%程度といわれている。母子感染の予防のためには、性器にヘルペス性病変がある場合は、帝王切開で胎児を分娩させることが薦められている。
⑦尖圭コンジローマ
性器へのヒト乳頭腫ウイルス(human papillpmavirus; HPV)感染症で大部分が性交あるいは、その類似行為で感染する。HPVは接触により皮膚や粘膜の微小な傷から進入し、基底細胞を含む分裂可能な細胞に感染する。感染後、視診で観察できるまでに3週~8ヶ月(平均2.8ヶ月)を要するので、感染機会を特定できないことも多い。感染部位は、外陰部、肛門周囲、肛門内、尿道口、膣、子宮頸部にみられ、それらに乳頭状腫瘍が多発する。治療は切除や焼灼する方法を第一選択として、最近、塗り薬による治療もあるが、これは治療範囲の制限や痛みやはれなどの副作用がある。また実際に視診上治癒しても、3ヶ月以内に約25%再発する。(産婦人科) - 更年期障害
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更年期とは生殖期から生殖不能期への移行期で、加齢に伴い性腺機能が衰退し始め、やがて低下安定するまでの期間をさす。一方、閉経とは月経が消失することをさし、実際には無月経が1年間持続したらさかのぼって閉経であったと判定する。更年期とは閉経期周辺をさし、わが国では45~55歳ぐらいが更年期に相当し、平均閉経年齢は51歳~52歳と推定されている。更年期に起こる最も重要な生物学的変化は、卵巣機能(エストロゲン)の消退である。女性の体は多くの臓器・組織にエストロゲン受容体が存在していることが明らかになっており、エストロゲンの消退はこれらの臓器・組織に急性、慢性のさまざまな障害をきたす。つまり、更年期障害とはエストロゲンの消退により、多種多様の症候群で、器質的変化に相応しない自律神経失調症を中心とする不定愁訴を主訴とする症候群と定義され、性腺機能の衰退に伴う中枢神経系の機能失調による神経性・代謝性の症状と社会心理要因に基づく症状が複雑に絡み合って発症すると考えられている。症状としては顔面紅潮、のぼせなどの血管運動神経症状が典型的であるが、頻度としては肩こり、腰痛、易疲労性などが多い。
更年期障害の診断
まず、更年期であること、主訴が更年期障害に特有なものであること、および器質的疾患や精神疾患が除外されれば更年期障害と診断される。
更年期であることの診断は、内分泌学的検査法によって、行われる。これには血中エストラジオール(E2)および卵胞刺激ホルモン(FSH)濃度の測定により、卵巣機能の低下を確認することが有用である。また、主訴が更年期障害として特有なものであることの確認は、Kuppermann更年期指数や簡略更年期指数(SMI)などがある。
更年期は成人病をはじめとする様々の疾患の後発時期でもあるので、器質的疾患の除外は重要である。甲状腺疾患や心血管疾患などの内科疾患のほか、整形外科的疾患、脳神経外科的疾患、耳鼻科疾患など多岐にわたるが、更年期障害とはこれらがすべて除外された後初めてつけられるものである。更年期障害の治療
*ホルモン補充療法
更年期および閉経後女性の健康を維持・増進する療法で、エストロゲン製剤を投与する治療を総称してホルモン補充療法(hormone replacement therapy: HRT)という。2002年のWomen’s Health Initiative(WHI)試験結果では、乳がんや心血管系疾患への悪影響が懸念されたが、その後、閉経後早期に開始されたHRTは心血管系に対し、保護効果があるだけでなく、5年以下のHRTでは乳がんリスクはほとんど上昇しないとされている。エストロゲン製剤の投与方法には経口、経皮(貼付タイプと塗皮タイプ)、経膣の方法がある。一般的に経皮投与では脂質代謝や血栓に対する悪影響が出現しにくい。子宮のある女性では、子宮内膜の悪性化を防止するために黄体ホルモンの併用が行われる。
*漢方薬
更年期にみられる不定愁訴は、全身にわたり、精神症状と身体症状が錯綜して現れます。漢方医学的には「気血水」のアンバランスを示していて、自律神経機能の不安定さが、「五臓六腑」の障害症状として説明されています。更年期障害とは、「気血水」すべてに異常が起きているため、のぼせ、発汗、肩こり、動機、不安定、気力低下、めまい、耳鳴りなどの代表的な症状から、口が苦い、のどがつまった感じ、胸に何かがぐっと迫ってくる、などの独特の症状まで、個人によって千差万別の症状が出来上がります。ですから、更年期障害とは「女性ひとりひとりの癖や個性や体の弱い箇所によって、それぞれ異なって出現する不定愁訴の集合体」なのです。また、漢方医学において、人の病気や異常病体は各臓器や帰還が不統一に異常をきたすのではなく、ある一つの異常が各臓器、各器官の機能失調につながり、症状や所見として現れてくると考えられています。人の身体は一つであり、本来すべての異常はつながりをもつと考えられています。漢方薬は、2つ以上の作用ベクトルの異なる生薬の組み合わせでできています。20種類もはいっているものもあります。ですから、一人の女性の訴える多くの症状へ一つの漢方薬で対応できるのです。漢方薬の処方はそういった考えかたから、漢方四診(望診、聞診、問診、切診)という漢方診察法で診察し、一人ひとりにあった漢方薬を選びます。(産婦人科) - 骨粗鬆症
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女性の「骨の健康」は、女性ホルモンの変化に大きくうけています。
閉経を迎えると、体内の女性ホルモンの分泌量は急激に低下し、更年期障害などの女性特有の疾患にかかりやすくなります。骨粗鬆症は閉経後に発症しやすい疾患の1つです。骨量や骨密度は閉経以降に急激に減少して、閉経後10年間で約20%も減少してしまうことがわかっています。つまり、骨自体の大きさは変わらないのに、中身がスポンジや軽石のように弱くなってしまう状態になります。これは、女性ホルモン(エストロゲン)の減少に伴って骨の代謝が悪くなることのほかに、加齢によって腸でのカルシウム吸収の低下や、体内で活性型のビタミンDがつくられにくくなることなどが原因だと考えられています。
骨量の変化は、男性よりも女性に多くでることが特徴です。女性は男性に比べてもともとの骨量が少なく、また生涯のなかで骨量自体が大きな変化をします。私たちの骨量は若年の時期にピークを迎え、40歳ぐらいまでこの状態を維持し、以後は徐々に減少、閉経を迎えると急激に減少します。つまり、閉経期の女性にとって、骨粗鬆症はとても身近で注意が必要な疾患なのです。骨粗鬆症でもっとも心配なのは、骨がもろくなることで「骨折しやすくなる」ということです。骨量が減少しても、初期には全く自覚症状はありませんし、それ自体が大きな病気というわけではありませんが、ひとたび骨折すると姿勢の変化をきたして、他の病気になりやすくなったり、大腿骨の付け根の骨折(大腿骨頸部骨折)などが発生すれば、寝たきりの原因となってしますこともあります。わが国では、寝たきりの原因として、脳血管疾患、老衰についで第3位が骨折となっています。
骨粗鬆症になりやすい人のリスク因子として、喫煙、過度のアルコール摂取、運動不足、やせた体格、カルシウム・ビタミンD不足のほか、ステロイド薬の服用、早い閉経、などがあります。これらのうち、多くのものは生活習慣病と関連していますので、改善により骨量への悪影響を防ぐことができます。骨粗鬆症の診断
骨粗鬆症の多くは無症状です。骨粗鬆症は症状だけでなく、骨密度を測定することで診断します。リスク要因のある方や65歳以上のすべての女性に骨密度を測定することを推奨しています。骨密度の測定には、X線を用いて腰の骨(腰椎)を中心にさまざまな部位の骨を調べることが一般的です。とくに苦痛のない検査ですので、気軽にうけることができます。ほかに簡易法として超音波を用いてかかとの骨(踵骨)を調べる方法もあります。骨粗鬆症の予防方法
若年期にしっかりと骨密度を高めておくことがもっとも大切です。若年期には、適切な栄養(とくにカルシウム、ビタミンD)摂取と運動をすることが奨められています。日本人の平均的な食生活ではカルシウムの摂取が不足がちになることが明らかとなっていますので、若年期ではとりわけ意識して摂取することが望まれます。中高年の方では、骨量減少を食い止める努力が必要です。適切な食事や、日光浴、運動などをおこなうことや、喫煙、過度のアルコール摂取を避けることなど、骨によい生活習慣を心がけることが重要です。検査により、骨量減少、骨粗鬆症と診断された方は、骨折を起こさないようにしなければなりません。生活習慣の改善の他に薬物治療が必要になることもあります。骨粗鬆症の薬物治療
1つはカルシウムやビタミン類の補給とビスフォスホネート製剤や女性ホルモンのように骨が溶かされるのを抑えて骨量を増やすものがあります。(産婦人科)
免疫
- 関節(かんせつ)リウマチ
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免疫の異常によって、関節に炎症が起こり、腫れや強い痛みが生じる病気です。放置すると軟骨や骨が破壊され、関節が変形してしまう病気です。
1. 診断
1つ以上の関節が腫れていて、かつ他の病気でない確認をした上で、腫れている関節の数、痛い関節の数、症状のある期間、採血結果(リウマチ因子=リウマトイド因子、抗CCP抗体、血沈、CRP)、レントゲン検査の結果などを総合して診断します(図参照)。2. 治療目標
治療の目的は、関節リウマチのために体が不自由にならない状態が長期間続くようにすることです。そのための治療目標としては、寛解(かんかい)または低い活動性の状態を達成しそれを維持することが重要であるとわかっています(図参照)。
寛解とは、病気の活動性(勢い)が全くない状態です。
寛解や低い活動性であることを決める方法として、SDAI、CDAI、ACR/EULAR 2010新寛解基準、DAS28基準などが使用されています。これらは、28カ所の関節の診察所見・患者さんの自己評価・医師の評価・血液検査などを総合して活動性を評価するものです(図参照)。
治療中の患者さんは、将来の身体機能の障害を予防するために、ご自身の現在の活動性の状態が寛解~低い活動性という目標達成の状態であるのかを知ることが大切です。3. 目標達成に向けた治療
飲み薬の抗リウマチ薬あるいは点滴・皮下注射の生物学的製剤によって寛解あるいは少なくとも低い活動性の状態を達成しそれを維持するべく治療をすることが重要です(図参照)。4. 関節リウマチの治療
病気の理解をした上で、お薬による治療(薬物療法)、リハビリテーション、手術療法のうち、適したものを行いますが、その中心となるのは薬物療法です。そして、その薬物療法の中で本質的な治療薬は、飲み薬の抗リウマチ薬(メトトレキサート,リマチル、アザルフィジンなど)と生物学的製剤です(図参照)。5. 生物学的製剤とは
最新のバイオテクノロジー技術を駆使して開発された新しいお薬で、生物が産生した蛋白質を利用して作られています。具体的には、生体内の悪いものだけに効くように設計され、かつ生体内に存在するような形で作ったお薬です。2015年5月現在、日本では7種類の関節リウマチに対する生物学的製剤があります(図参照)。いずれの生物学的製剤も非常に良く効くのが特徴です(70~90%の人に有効。20~70%の人が寛解になる)。値段が高いことが最大の問題です。
具体的には、インフリキシマブ(商品名:レミケード)、アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)、エタネルセプト(商品名:エンブレル)、トシリズマブ(商品名:アクテムラ)、アバタセプト(商品名:オレンシア)、ゴリムマブ(商品名:シンポニー)、セルトリズマブ(シムジア)の7種類があります(図参照)。6. 薬物治療中の副作用予防
主治医の先生とよく相談して治療をされ、定期検査・服薬を厳守して、もし体調が悪ければ早めに受診して診察を受けることが大切です(図参照)。(免疫リウマチ科) - 気管支喘息
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気管支喘息は、空気の通り道である気道(気管支)に炎症がおこるために、空気の流れが制限される病気です。気道が色々な吸入する刺激に対して過敏に反応するために、発作性に咳、ゼイゼイ・ヒューヒュー鳴る喘鳴、息が苦しくなるような症状がおこります。
適切な治療を受けるとともに自己管理をしなければ、気道の炎症が慢性化しやがて薬がきかなくなります。いまだ夜中に息苦しくて目が覚めるあるいは発作止めの吸入薬が手放せない毎日に慣れてしまい、これぐらいは仕方がないと感じている人がかなりおられるといわれています。しかしながら、近年治療は進歩し、様々な種類の吸入薬、飲み薬、皮下注射である抗IgE抗体療法などを使い分けることで、健康な人と同じ生活を送ることが多くの患者さんで可能になっています。そのような意味で医療機関を受診して適切な治療を受け、それを継続することが大切です。
当センターでは、急性期病院でありかつ救急体制が充実しております。当直医により、年中無休で24時間対応できる救急外来を併設しておりますので、夜間、明け方に多い喘息発作に対応できる環境が整っております。一人ひとりの病状に応じて、きめ細かな診療と適切な日常生活指導をおこなっておりますので、お困りの方はぜひ当センターの免疫リウマチ科にご相談ください。(免疫リウマチ科)
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
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SLEは、代表的な膠原病・自己免疫性疾患(体の防衛システムである免疫機構が、自分の体の一部を敵とみなして攻撃する疾患)で、腎臓・神経・造血器・皮膚・粘膜・肺など多くの全身の臓器がおかされる病気です。男女比は1:9と女性に多い病気です。
1. 症状:主な症状は以下のものです。
① 全身症状:発熱、倦怠感
② 皮膚・粘膜症状:発疹(代表的なものが、顔に生じる蝶の形をした赤い発疹で蝶形紅斑と呼ばれています。発疹は日光で悪化します)、口内炎など。
③ 関節痛
④ 腎炎:検尿の異常や腎不全など。
⑤ 神経系の障害:頭痛、けいれん、神経麻痺など。
⑥ 胸膜炎・腹膜炎・心膜炎
⑦ 造血器の異常:白血球減少、リンパ球減少、貧血、血小板減少など。
⑧ 血清学的検査異常(採血での異常):抗核抗体陽性、抗DNA抗体陽性、補体の低下など。2. 診断:
① 頬部紅斑
② 円板状紅斑
③ 日光過敏症
④ 口腔潰瘍
⑤ 関節炎
⑥ 胸膜炎または心膜炎
⑦ 腎障害
⑧ 神経障害
⑨ 血液異常 :溶血性貧血、白血球減少症、リンパ球減少症、血小板減少症
⑩ 免疫異常:抗二本鎖DNA抗体陽性、抗Sm抗体陽性、IgGまたはIgM抗カルジオリピン抗体陽性、ループス抗凝固因子陽性、梅毒血清反応生物学的偽陽性
⑪ 抗核抗体陽性
臨床経過中、経時的あるいは同時に上記11項目中、4項目以上陽性であれば、SLEと診断。
(Arthritis Rheum. 40: 1725, 1997)3.治療:主にステロイドにて治療しますが、病気の状態によっては、免疫抑制剤を併用します。治療の進歩によって、多くの患者さんの長期生存できる時代となりました。(免疫リウマチ科)
- リウマチ性多発筋痛症
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高齢者におこる、四肢近位筋(手足の筋肉のうち、胴体に近い部分の筋肉)の痛み・こわばり感、微熱、倦怠感を主な症状とする炎症性の病気です。
関節リウマチやリウマチ熱とは、別の病気です。1. 症状
首・肩の周囲・臀部・四肢近位筋の痛み・こわばり感。症状は左右対称性です。2. 検査所見
血沈の上昇、CRPの上昇、貧血など。
筋肉の症状があるにも関わらず、血液検査でのCKという筋肉の酵素は正常、筋電図検査・筋肉の組織検査も正常です。3. 診断
診断に際しては他の病気でないことを確認することが非常に重要ですので、リウマチ・膠原病の専門医を受診することが望ましいです。
さらに、リウマチ性多発筋痛症は時に悪性腫瘍を合併していることがあるため、適宜その検索をする必要があります。また、頭痛や視力低下などがあれば側頭動脈炎の合併の有無を早急に評価することが重要です。4. 治療
少量のステロイド投与が非常に有効です。開始後数日以内に症状が改善します。但し、短期間でステロイドを中止することは困難で、多くの場合1~3年間の投与が必要となります。5. 関節リウマチとは別の疾患
“リウマチ”性多発筋痛症は、関節リウマチやリウマチ熱とは、別の病気なので、間違えないように注意して下さい。(免疫リウマチ科) - 顕微鏡的多発血管炎
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顕微鏡的多発血管炎は、肺や腎臓などの臓器に分布する小さな血管(細小動・静脈、毛細血管)壁に炎症がおき、出血や血栓形成をきたし、臓器や組織に血液が流れにくくなる病気です。高齢者に多く認められます。原因は不明ですが、好中球細胞質の酵素に対する自己抗体(抗好中球細胞質抗体;ANCA)が検出されることから、免疫異常が背景にあると考えられています。
【症状】
発熱、全身倦怠感などの全身症状がでます。腎臓の血管に障害がおこると、尿検査の異常や、急速な腎機能の悪化をきたします。末梢神経が障害されると、手足の麻痺やしびれが起こります。肺の障害では、間質性肺炎や肺胞出血をきたし、咳、息切れ、血痰、喀血などの症状がでます。しかし、早期に診断され、早期に十分な治療が行われれば、多くの患者さんがよくなります。【治療法】
(1)寛解導入療法とは
血管炎の活動性を完全に低下させる治療法で、腎臓や肺などの重要臓器に血管炎による障害がある場合は、大量のステロイド薬と必要に応じて免疫抑制薬のシクロフォスファミド(エンドキサン)またはリツキシマブ(リツキサン)が投与されます。さらに重症な場合は、血しょう交換療法も併用することがあります。(2)寛解維持療法とは
寛解(病気の活動性がなくなった状態)になった場合は、ステロイド薬を減量し、併用薬である免疫抑制剤も中止または副作用の弱い他の免疫抑制剤に切り替えます。一部の患者さんでは、この間に血管炎が再燃することがありますので、定期的な専門医の診察が必要になります。(免疫リウマチ科) - 多発性筋炎・皮膚筋炎
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多発性筋炎・皮膚筋炎は、全身の横紋筋という筋肉に炎症がおこる病気です。横紋筋は、腕、肩、首、腰、足、心臓などにある筋肉です。このため疲れやすくなったり、身体に力が入りにくくなったり、筋肉が痛くなったりすることを基本症状とする病気です。
特徴的な皮膚症状(ゴッドロン徴候やヘリオトロープ疹)を伴う場合には、皮膚筋炎と呼ばれます。女性に多い傾向があり、小児期でも発症しますが、成人期の中高年に多く発症します【症状】
1.筋肉の症状
大部分の患者さんで、筋肉が障害されるために、疲れやすくなったり、筋力が低下するために力が入りにくくなったりします。特に、太ももや、上腕、首などの胴体に近い筋肉がおかされやすいので、「しゃがみ立ちできない」、「階段の昇り降りがしにくい」、「歩きにくい」、「入浴しにくい」、「髪がとかしにくい」、「頭を枕から持ちあがりにくい」など、日常生活に支障がでることで気づきます。重症になると、ものが飲み込みにくくなったり、立てなくなったりします。このような症状は、ゆっくりと進行していきます。2.皮膚の症状
ゴッドロン徴候(手指関節伸側のカサカサした紅斑)やヘリオトロープ疹(上まぶたが腫れて、紫紅色の紅斑)と呼ばれる特徴的な皮膚症状がでます。
ゴッドロン徴候3.関節の症状
関節痛・関節炎が認められることがあります。しかし、関節リウマチのように関節が変形することはなく、軽症のことが多いと言われています。4.レイノー現象
冷たい刺激などによって、手指が白くなり、ジンジンしびれる症状です。5.呼吸器症状
間質性肺炎を合併すると、咳、動くと息切れがする、呼吸が苦しいなどの症状がでます。胸部レントゲン検査、胸部CT検査などで診断されます。6.心臓の症状
心臓の筋肉が障害されて、不整脈がおきたり、心臓の力が弱まることがあります。7.全身症状
発熱、全身倦怠感、食欲不振、体重減少などを認めることがあります。8.悪性腫瘍
悪性腫瘍を合併することがあるため、その検索することも重要です。【治療法】
主に薬物療法が主体で、副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)が使用され、効果的です。一般に大量ステロイド療法(体重1kgあたりプレドニゾロン換算で1mg/日)が行われ、筋力の回復、検査所見の改善を見ながら数ヶ月かけてゆっくりと、最小必要量(維持量)にまで減量されます。
ステロイドが無効な場合や副作用が著しく出てしまう場合には、免疫抑制薬が一緒に投与されることがあります。
また、最近これらの治療でも効果が得られない場合に、γグロブリンの静脈内注射療法が保険適応に認められました。
専門医から薬の効果と副作用などをよく聴き、充分に理解した上で治療を受けることが大切です。(免疫リウマチ科)
神経
- 脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)
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脳動脈瘤とは脳の血管にできた瘤ですが破れるとクモ膜下出血になります。年間の出血率は約1%といわれていますが、いったん破れると致死率は4~5割にもなると考えられています。 70歳以下で5mm以上の脳動脈瘤がある人は一度専門医に相談してみましょう。(脳神経外科)
- 片側顔面攣縮(かたがわがんめんれんしゅく)
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一側の眼輪筋にピクピクと引きつれるような攣縮が起きて眼が閉じるような状態になる。同時に口角も斜め上方へ引かれるようになる。このような状態が頻繁に起こり苦痛になる病気を片側顔面攣縮といいます。これは顔面神経が脳幹を出たところで動脈に触れて長期にわたり刺激されたため顔面神経に異常な動きが起こると考えられています。内服薬で効かない難治性の場合では小さな開頭手術を行い多くの場合、完治します。(脳神経外科)
- 三叉神経痛(さんさしんけいつう)
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一側顔面に数秒から数十秒の電撃的な痛みが走る。針で刺されるような、カミソリで切られるような、などと表現されかなりつらいものです。風が吹いても痛いといわれる場合もあります。原因不明なこともありますが、三叉神経が脳幹を出たところで動脈に触れて刺激されることが原因である場合があります。はじめは内服薬で治療しますが難治性のときは三叉神経から動脈を移動させる手術を行います。多くはこの手術で治ります。(脳神経外科)
整形外科・リハビリテーション
- 腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)
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腰部脊柱管狭窄症とは椎間板の変性、膨隆と椎間関節や黄色靭帯の肥厚などが原因で脊柱管が狭窄し、神経を圧迫する病気です。
腰痛、下肢痛、下肢しびれ、下肢の筋力低下(脱力)、膀胱直腸障害などの症状が出現します。間欠跛行(歩行の持続にて下肢のしびれや痛みが出現し、休憩することにより症状が軽減し、再度歩行できる症状の繰り返し)が特徴的な症状です。間欠跛行は閉塞性動脈硬化症(下肢の血流障害)でも出現する症状ですが、腰部脊柱管狭窄症であれば自転車なら、①長距離駆動が可能であるという点、②前屈姿勢で症状が軽減する点で鑑別できます。検査として非侵襲的な(放射線の被曝がない)MRI検査が有用です。圧迫されている神経の所見(痛みの部位、筋力低下の部位、しびれの部位)とMRI画像所見が一致していることが重要であり、症状の原因となる部位が特定困難な場合、神経根造影検査や脊髄腔造影検査、CT検査などが必要になります。
保存療法としては、①安静、②日常生活指導(自転車に乗る、押し車をおすなど)、③薬物療法(非ステロイド性消炎鎮痛剤、筋弛緩剤)、④腰椎物理療法、⑤硬膜外ブロック(ステロイド注射)などがあります。
保存療法では限界(日常生活や仕事に支障をきたすなど)であると判断した場合、手術的治療の適応と考えます。症状が腰痛のみの場合は手術を勧めません。
手術の方法は除圧術のみと.除圧術に固定術を追加する方法があります。いずれの術式を選択するかは症状と画像所見で決めます。(整形外科) - 腰椎椎間板(ようついついかんばん)
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腰椎椎間板ヘルニアとは椎間板髄核が線維輪の断裂により、脊柱管に脱出して神経を圧迫する病気です。
腰痛、下肢痛、下肢しびれ、下肢の筋力低下(脱力)、膀胱直腸障害などの症状が出現します。神経緊張徴候が陽性であることが特徴的で、検査としては非侵襲的な(放射線の被曝がない)MRI検査が有用です。圧迫されている神経の所見(痛みの部位、筋力低下の部位、しびれの部位)とMRI画像所見が一致していることが重要です。
椎間板ヘルニアは保存療法で症状が軽減しやすい病気です。保存療法としては、①安静、②日常生活指導、③薬物療法(非ステロイド性消炎鎮痛剤、筋弛緩剤)、④腰椎牽引療法、⑤硬膜外ブロック(ステロイド注射)などがあります。
①痛みが強く、日常生活・仕事に支障をきたした場合、②下肢の筋力低下が出現した場合、③膀胱直腸障害(排尿・排便の感覚がわからない)が出現した場合は、手術的治療が必要と考えられます。症状が腰痛のみの場合や下肢のしびれのみの場合は手術を勧めません。
手術の方法は①腰部の後方を切開し、脱出した髄核を摘出する髄核摘出術、②最小侵襲手術である内視鏡手術、③レーザー手術があります。(整形外科)
耳鼻科
- 嗄声(させい):声のかすれ
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声のかすれ(嗄声)には注意しましょう
日頃は気にとめることもない「声」の調子ですが、風邪をひいたり、カラオケで長い時間歌っていると、声がかすれてきたり、時には全く声が出なくなることがあります。その様な場合は1-2週間もすれば、その内、もとの声の調子に戻ってくるのが普通です。しかし、声のかすれが長期間にわたって続く場合には耳鼻咽喉科を受診されることをおすすめします。また、よい声を維持するためには、どなるとか騒がしい場所で無理に大きな声を出すことはできるだけさけなければなりません。それ以上に大切なのはタバコ喫煙はまずやめなければいけないということを強調しておきます。
以下に具体的に声のかすれを生じることの多い病気の概略を説明します。1) 急性喉頭炎
風邪をひいてのどを痛めると鼻水などの症状とともに、声がかすれることが多いです。これは喉頭という空気の通り道に炎症が起こり、とくにのど仏の奥にある声帯が赤く腫れて生じる症状です。耳鼻咽喉科の診療所で局所の治療(ネブライザー)を受け、消炎剤のお薬を内服することで改善します。しかし、注意しないといけないのは喉頭の入り口の喉頭蓋という部分が強く腫れて呼吸が苦しくなる場合があります。その場合は救急処置が必要になります。2) 声帯ポリープ(声帯結節など)
喉頭の声帯の一部に血豆のような丸い腫れや、しゃべりだこといわれる結節が生じることがあります。風邪気味のときに無理してカラオケで歌ったり、大きな声を出したりしたことが原因となります。学校や保育園、幼稚園などの先生や、歌手、僧侶など職業的に話す時間の長い人に生じて結節がみられます。また、喫煙がもっとも原因となって、両方の声帯が水ぶくれ状態になって、ひどいしわがれ声になる「ポリープ様声帯」という病気があります。それぞれに応じて軽い場合は声の安静、楽な正しい声の出し方をして、局所の治療を受けて治ることもありますが、治らない場合は入院して全身麻酔をかけてもらってポリープ切除を受けないといけません。3) 声帯マヒ(反回神経マヒ)
左右ある声帯のどちらかの動きが悪くなって、力のない弱い声になってしまい、軽いむせ(誤嚥)を生じることがあります。その原因にはウイルスの感染や脳梗塞の後に生じるものもありますが、肺や食道や甲状腺などの悪性の病気がないかどうか調べるためにレントゲン検査などを受ける必要があります。4) 喉頭がん
50歳以後で声がかすれてきた時に特に問題となるのがこのがんです。耳鼻咽喉科でのがんの内、もっとも多い病気で、男性に圧倒的に多く、しかもタバコの喫煙歴が最大原因です。女性にもまれに見られますが、それらの方はすべて喫煙者であるといえます。声帯に小さながんが生じてもすぐ声がかすれてきますから、症状が出て耳鼻咽喉科を受診して、早期のがんの場合には放射線治療で高い治癒率が示されています。しかし、症状があっても永くほったらかしていたり、声帯以外の場所からがんが発生してかなり大きくなって声のかすれの症状が出ることがあります。そのような場合には放射線に抗がん剤を加えた治療や、喉頭全部を摘出せざるをえなくて声を失うということもあり、治療の面でも厳しいことがあります。最近は、鼻から細いファイバースコープを入れて喉頭を観察することが多くの診療所でも行われており、より早期に診断されることが多くなっています。声のかすれを生じる病気の多いものを示しましたが、他にも原因となる病気がありますので、長期間声のかすれが続く場合はぜひ診察を受けられることをおすすめします。
現在タバコを吸っている方には禁煙をされることを改めておすすめします。当院でも禁煙外来もあります。(耳鼻咽喉・頭頸部外科) - 鼻出血(びしゅっけつ)その1
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ちょっとした「鼻ほじり」や「はなかみ」などがきっかけで私たちは誰でも鼻出血の経験はあるかもしれません。夜寝ている間に鼻をほじっている子供さんなどでは朝起きると枕が血で汚れていた、とか大人の方でも血をみるとびっくりして興奮して血圧があがってしまいさらに出血がひどくなったりと、やはり鼻出血はいやなものです。 誰にでも起こる鼻出血の9割強は鼻の入り口すぐのところにある「キーセルバッハ」という場所からの出血で、健康な方のこの部位からの鼻出血であれば下記のような家庭での対応が可能です。
Ⅰ.まず行うべき鼻出血への対応:
手前からの出血でも鼻の構造が、咽頭(のど)に向かって下り坂になっているため、血液はのどに流れやすいです。この血液は飲み込まないようにし、下を向いて頭を下げ鼻の入り口の孔が完全に塞がるように両側の鼻翼(鼻を膨らませるときに動かすことのできる柔らかい部分)を指でしっかりはさんで圧迫してください。15分程度圧迫すると止血します。
鼻出血は一度出ると1ヶ月程度は繰り返すこともあります。日常生活に支障がでることもあり、そのような場合には近くの耳鼻咽喉科を受診してください。これからあげるのはいずれも医療機関の受診が必要になるケースです。
まずかかりつけ主治医への相談や近くの耳鼻咽喉科へ受診をしてください。
場合によって当科への紹介のうえ、専門的加療が必要になるケースも含まれます。Ⅱ.ワーファリンやバイアスピリンなどを内服されている場合の鼻出血:
心臓の病気や脳梗塞の既往などがあり血液をサラサラにする薬(ワーファリンやバイアスピリンなど)を内服されている方では主治医に相談のうえ休薬が必要なこともあります。Ⅲ.緊急入院や止血手術が必要となる鼻出血:
鼻出血の1割弱の方ですが、鼻腔の後方の動脈や副鼻腔の中の血管からの出血で止血が難渋したり、何日間も繰り返す場合もあります。入院のうえ内視鏡下で止血手術を行う場合もあります。多くは夜間から明け方にかけて突発的に発症し、何回も繰り返し、気づくと貧血が進行し、不整脈になる場合もあります。
背景には高血圧症を放置している場合や、仕事が忙しく不眠やストレスが続いていた場合などいくつかの共通した要因があげられます。(耳鼻咽喉・頭頸部外科) - 鼻出血(びしゅっけつ)その2
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鼻をかんだときに少量の血が混じる場合に隠れている鼻腔の疾患:
① 鼻腔形態異常による場合
鼻中隔彎曲症という鼻腔形態の異常のため鼻出血を繰り返す場合もあります。鼻中隔という鼻の真ん中にある壁が左右どちからに極度に突出していることで鼻閉の原因になるだけでなく、粘膜に傷が生じて繰り返す鼻出血の原因になることがあります。鼻中隔矯正術という手術治療を行います。② 鼻腔から発生する癌(副鼻腔癌、上顎癌)の場合
若い頃から副鼻腔炎があり仕事が忙しくついつい放置していたが、最近急に片方だけ鼻閉が強くなり鼻をかむと血がまじる・・・といったような背景のある場合に癌が原因である事も少なくありません。診断にはまずファイバースコープ、CT、MRIや場合によっては手術室で内視鏡下の生検を行います。治療は生検の結果や進行具合によって異なります。③ 炎症性の疾患が原因の場合:
炎症性のポリープも最近ではアレルギーが原因の場合、真菌(かび)が原因の場合などさまざまな病態があります。抗生剤の内服加療に抵抗性のことやまた出血を繰り返すことも少なくあります。ファイバースコープやCT検査にて検査を行いますが、根治治療には内視鏡下での副鼻腔手術を行ったうえでさらに術後の内服や鼻洗治療などが必要な場合もあります。このように鼻出血といってもさまざまな病態を含むこともあります。繰り返す場合には近くの耳鼻咽喉科への受診、かかりつけ主治医への相談をすることが肝要です。
- 口腔がん(こうくうがん)、舌がん(ぜつがん)
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口腔がんとは口の中にできるいろいろな癌を総称した名称です。口腔がんのうち最も多いのが舌にできる舌癌です。このほか、舌と歯ぐきの間にある口腔底という部位にできる口腔底がんや、頬の内側の粘膜にできる頬粘膜がんなどが含まれます。
ここでは特に舌癌について特徴をまとめます。
Ⅰ.舌の働きについて
舌の主な働きは以下の3つです。
① 嚥下(食物をのどに送り込む)機能
② 構音(言葉を作る)機能
③味覚Ⅱ.舌癌の特徴
原因:
飲酒や喫煙、歯並びの悪い歯が常に接触する機械的な慢性刺激などが誘因と考えられています。
症状:
早期には口内炎のような潰瘍や白板症(舌粘膜の白色になる病気)と肉眼的に区別がつかないことがあります。専門医での生検をおすすめします。
病気が進行すると痛みや出血、構音障害、嚥下障害などが現れることもあります。
舌がんの中には急速に進行し、原発が小さくても頚部のリンパ節に転移している場合もあり注意が必要です。このタイプを正確に診断することは困難であるため、転移や再発の有無をチェックするための治療後の経過観察は重要です。Ⅲ.診断
確定診断には小さな肉片を採取し病理組織検査が必要です。腫瘍マーカーによる血液検査等での診断は手がかりになりません。病変の広がりを診断するためにCTやMRIなどの画像検査を行い治療方針を検討します。進行している場合には全身への転移検索のためにPET検査を行う場合もあります。Ⅳ.治療
治療の中心は手術治療と放射線治療です。
抗がん剤による化学療法を併用する場合もあります。
① 手術治療
病変の広がりにより切除範囲がきまります。
早期の場合には舌部分切除で、切除が半分以下であれば機能障害はほとんどありません。
進行舌癌で、舌を半分以上切除することになると切除後の欠損部を種々の方法で再建する必要があります。機能障害の程度は切除範囲によって異なります。手術後数週間は口から食事をとれないため鼻から胃へ管をいれて管から流動食を摂取します。
進行舌癌の場合、形成外科医による再建手術を行うのと、場合によっては手術時に同時に嚥下改善手術も併用します。手術後しばらくは唾液も嚥下できなかったり術後の炎症で喉頭浮腫もおこるため多くの場合気管切開も同時に行います。
頚部リンパ節転移を伴っている場合には頚部郭清術も同時に行われます。
転移が明らかでない場合でも行う場合もあります。
頸部郭清の術後の後遺症としては下口唇の動きが弱くなったり、肩こりのような頚部違和感や腕が上がりにくくなるなどがあります。
術後嚥下や構音機能の障害に対してはリハビリを行います。
② 放射線治療
体の外から放射線を当てる治療です。これのみで舌癌の根治を目指すことはほとんどなく、手術との組み合わせや術後の追加照射として行われることがあります。副作用は口内炎、味覚障害、唾液分泌障害による口腔乾燥などがあげられます。通常平日5日間毎日数分ずつ、約1ヶ月半の照射が必要です。照射後は抜歯により下顎骨の骨髄炎が起こる場合もあり注意が必要です。
関連リンク:日本耳鼻咽喉科学会 http:/www.jibika.or.jp/(耳鼻咽喉・頭頸部外科)
眼科
- 糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)
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1) 糖尿病網膜症とは
糖尿病網膜症は糖尿病腎症、神経症とともに糖尿病の3大合併症のひとつです。カメラで言えばフィルムにあたる網膜にある細い血管が障害を受けます。この毛細血管がこぶのようにふくれる毛細血管瘤、血管壁が破れることによる点状出血や斑状出血、血漿成分が染み出してできる硬性白斑が出現します(単純網膜症)。進行すると血液の流れが悪くなり(虚血状態)、綿花のような軟性白斑などが見られます(増殖前網膜症)。また黄斑部に浮腫を来たすと視力が低下してきます(糖尿病黄斑症)。さらに進行すると網膜に対する酸素や栄養素の供給が一層不十分となり新生血管が出現します。この血管はもろくて出血しやすいので、硝子体出血(目の中の空洞への出血)、増殖膜、牽引性網膜剥離を起こし失明の原因になりえます(増殖網膜症)。2) 自覚症状
単純網膜症~増殖前網膜症の段階では自覚症状はほとんどありません(糖尿病黄斑症がない場合)。増殖網膜症の段階になると硝子体出血では飛蚊症や急激な視力低下を、また増殖膜、牽引性網膜剥離では著明な視力低下を認めます。3) 検査方法
視力検査、眼底検査、蛍光眼底検査、光干渉断層計(OCT)などの検査を行ないます。4) 治療法
糖尿病が主因ですから血糖コントロールは言うまでもありません。眼科における治療法としてはまず網膜光凝固術(レーザー治療)があります。網膜の酸素不足の状態(虚血状態)を改善し新生血管の発生を予防したり、すでにある新生血管の活動性を弱めるために行ないます。開始時期ですが、ふつう単純網膜症の時期は行なわず増殖前網膜症~増殖網膜症の段階で行ないます。治療の意義は網膜を元の状態に戻すことではなく悪化を防ぐことを目的としていますが、現状としてはかえって視力が低下することがあります。しかし失明予防のためには重要な治療法です。次に硝子体手術ですが、硝子体出血が吸収しない場合や増殖膜、牽引性網膜剥離発症の段階で行ないますが、網膜自体が弱っているために大幅な視力改善は望めません。非常に高度な技術を要する手術です。(眼科) - 加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)
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1) 加齢黄斑変性とは
物を見るうえで最も重要な黄斑(カメラで言えばフィルムにあたる網膜の一部)の加齢に伴う変化によって起こる病気です。高齢者の失明(中心が見えにくくなる意味)原因の一つであり、平均寿命の延長、食生活の欧米化などにより増加傾向にあります。具体的には異常な新生血管が原因となり出血や滲出物が溜まったりします。加齢黄斑変性には滲出型と萎縮型がありますが、光線力学的療法や抗VEGF抗体による抗血管新生薬療法(後述)の対象となるのは前者です。2) 自覚症状
物を見る際に中心部がゆがんだり暗く見えたりします。進行すると視力も低下します。3) 検査方法
視力検査、眼底検査、蛍光眼底検査、光干渉断層計(OCT)などの検査を行ないます。特に重要なのは蛍光眼底検査であり、腕から2種類の造影剤を注射して目の奥の写真を撮ります。4) 治療法
主な治療法は光線力学的療法(レーザー治療)もしくは抗VEGF抗体による抗血管新生薬療法です。前者は光に反応する薬剤を点滴したうえで特殊な弱いレーザーを照射します。従来のレーザー治療と比べて正常な組織に対する悪影響が少ない特徴があります。初回の治療後は基本的に3ヶ月毎に蛍光眼底検査などを行い必要があれば再照射します。後者は抗VEGF抗体を硝子体内に注射します。1ヶ月おきに最低3回行ない、必要があれば追加します。この病気は加齢性変化であるために再発があり、またもう片方に発症することがあります。黄斑部のようなデリケートな領域は一度障害を受けると正常な状態には戻らないので、この治療の意義は進行する病気を現状維持させることが主目標という認識が必要と思います。(眼科) - 白内障(はくないしょう)
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1) 白内障とは
カメラで言えばレンズに相当する水晶体が濁る病気です。主に加齢に伴う変化によって起こる病気です。ぶどう膜炎などの目の病気、糖尿病、外傷などが原因になることもあります。2) 自覚症状
基本的には進行すると視力低下を来たしますが、水晶体の濁り方に個人差があるために他にも様々な自覚症状があります。かすんで見えたり、特に明るい所でまぶしくて見えにくかったり、近視の進行などです。3) 検査方法
視力検査や細隙灯顕微鏡検査で水晶体の濁り方を観察します。4) 治療法
点眼による治療には限界があるため、症状を改善させる唯一の治療法は手術となっています。具体的には局所麻酔でおこない、大多数は超音波で水晶体を砕いた後に眼内レンズを挿入します。手術時期ですが、一般的には日常生活に不自由さを感じる時ですが、進行した白内障や閉塞隅角緑内障などを合併している場合は自覚症状があまりなくても早めに手術をする場合があります。術後の視力ですが、他の目の病気がある時には改善しにくいことがあります。合併症ですが、手術法や眼内レンズの進歩により減少していますが、重篤なものとしては細菌感染による眼内炎などがあります。他に水晶体の袋や支えが弱い場合は眼内レンズを縫着したり、また水晶体の後ろの膜が先で濁ってきてレーザー治療が必要になることがあります。(眼科) - 緑内障(りょくないしょう)
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1) 緑内障とは
緑内障とは視神経が障害を受けるために視野が狭くなる病気ですが、眼圧上昇が重要な病因と考えられています。視神経の丈夫さには個人差があるために安全な眼圧は人によって異なります。眼圧が正常でも緑内障を発症することがあります(正常眼圧緑内障が緑内障全体の約7割)。通常、眼圧をその人にとって安全な領域まで下降させることにより視野障害の進行は遅くなります。2) 自覚症状
緑内障には様々な種類があるために一概には言えませんが、一般的には目の痛みや視力低下はなく主に視野障害になりますが、かなり進行するまでは気が付かないことが多くなっています。しかし急に眼圧が上昇した時には目の痛み、充血、かすみに加えて頭痛、吐き気が起こる時があります。3) 検査方法
眼圧検査、眼底検査、視野検査などを定期的に行ないます。4) 治療法
一般的にはまず薬物療法ですが、眼圧コントロールが困難な際には手術となります。しかし隅角(房水の出口)が閉塞しているタイプでは早めにレーザー治療や手術を行なうことがあります。また他の目の病気が原因となって緑内障を発症することもあります。この際には原疾患の治療も必要です。手術によっても障害された視神経は基本的には回復困難ですが、眼圧下降により進行を遅らせることは意義があります。また手術によっても進行を止められない難しい緑内障もあります。(眼科)
形成外科
- 眼瞼下垂
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眼瞼下垂とは上まぶたが下がり視野狭窄を呈する状態をいいます。両側の場合もあれば片側の場合もあります。
上まぶたを挙げる筋肉の作用がうまく機能しなかったり、まぶたはしっかりあがっているのに皮膚がたるんでしまっているなど、病態もさまざまです。原因としては先天的なものありますが、後天的に加齢によるもの、またハードコンタクトレンズを長期にわたり着用したりすることによっても生じます。
他人から”眠たそうな眼をしている”と言われたことがあったり、”眉毛を上に引っ張ると物がみやすい”と感じる人は眼瞼下垂かもしれません。一度、専門医に御相談ください。 (形成外科) - 下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)
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下肢静脈瘤とは、血液の逆流を防ぐ弁が壊れてしまうことで、足に静脈血が溜まり、その結果、静脈が膨れてコブができてしまう病気です。比較的ありふれた病気で、出産歴のある女性、長時間立ち仕事の人に多いといわれています。
最初、足が”むくむ・だるい”といった症状が出始め、病状が進行すると下肢の皮膚の色素沈着、潰瘍を認めることもあります。
治療としては、手術による”逆流を認める静脈の除去”といった方法がありますが、専用の弾性ストッキングを履くことでほぼ同じ効果が得られます。
“足のコブは気になるけど、病院へ行く時間がない”とおっしゃる方は一度、弾性ストッキングの着用をお試しください。 (形成外科)
歯科
- 舌癌(ぜつがん)
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口腔がんとは、舌癌(舌にできるがん)、歯肉癌(上下の歯茎にできるがん)、口底癌(舌と下顎の歯茎の間:口底にできるがん)、頬粘膜癌(頬の内側にできるがん)、口蓋癌(口の中の天井:口蓋にできるがん)、口唇癌(上下の唇にできるがん)の総称です。また唾液腺癌(唾液をつくる組織にできるがん)なども挙げられます。その中で最も発生頻度が高いのが舌癌です。がんはしばしば転移(他の部位への飛び火)を起こす事が知られていますが、舌癌は口腔がんの中でも高い確率で頸部リンパ節(首のリンパ節)に転移を起こします。
舌癌
舌癌を含め、口腔がんの発生原因は喫煙、飲酒、義歯や虫歯による持続的な刺激が誘因と考えられています。さらに白板症(はくばんしょう)や紅板症(こうばんしょう)など粘膜の病変は前癌病変とされており、癌化する危険性があるため注意を要します。場合により切除することもあります。白板症
舌癌の主な自覚症状は腫脹(腫れ)と疼痛(痛み)です。表面に膨隆、びらん、潰瘍を形成する場合もあります。さわると硬結(しこり)を触れます。
口腔がんは一般的に中高年齢者に多く発生しますが、舌癌は20~40代の比較的若年層にも発症します。診断
がんの診断は、生検(病変の一部を採取して顕微鏡で調べる検査)により確定されます。さらに癌の拡がりを調べるためCT、MRI、PETなどの画像診断を行います。それにより病期(進行度)を決定し、治療法選択の基準とします。治療方法
口腔は
・構音(こうおん:言葉を話す)
・咀嚼(そしゃく:食物を噛む)
・嚥下(えんげ:飲み込む)などの機能を担っています。
そのため舌癌の治療にあたっては、がんを治癒させる事は勿論ですが、口腔の機能や症例によっては整容面をいかに保存し、もとの状態に近づけるかという事が重要になります。
治療法としては外科手術、放射線治療ならびに化学療法(抗がん剤)などがあります。【手術】
病変の範囲により切除範囲が決定されます。広範囲な切除手術が必要になることもありますが、切除に伴う組織の欠損部には当院形成外科医師との連携による遊離組織移植(顕微鏡を用いて血管を吻合することで皮膚や筋肉、骨を移植する手術)を同時に行い、機能と整容の維持・回復を図ります。
頸部リンパ節に転移が認められる場合や、転移が疑わしい場合は頸部郭清術(頸部のリンパ節組織を取り除く手術)を行います。この手術では転移している(または転移があると思われる)リンパ節を確実に除去するために、リンパ節に隣接する血管、神経、筋肉を一緒に切除します。病状によって残しても安全な血管、神経、筋肉は可能な限り残すよう心掛けています。【放射線療法】
癌に放射線を当てて治癒を目指します。また手術後の追加治療としても放射線治療が選択されます。リンパ節転移には効果が薄いため、放射線治療後に頸部郭清のみを行う場合も症例によってはあります。【化学療法】
抗がん剤による治療の事で内服(飲み薬)、静脈内投与(点滴による抗がん剤の投与)、動脈内注入化学療法(動脈の中にカテーテルを進めて抗がん剤を投与する方法)があり、病状によりそれらを決定しています。最近では当院画像診断科医師、放射線科医師との連携による超選択的動注化学療法(癌のより近くまでカテーテルを進め、抗がん剤を投与する治療法)と放射線療法の組み合わせにより高齢者の進行癌に対しても良好な結果を収めています。
これら3つの治療法を病状や患者様の状態・希望等によって単独、または組み合わせで行っております。
がんは前述のように転移したり、再発したりする可能性のある疾患ですので、治療後も外来にて厳重な経過観察を実施しています。必要に応じて定期的にCT、MRIなどの画像診断も行っています。(口腔外科) - 歯科の定期健診
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むし歯や歯槽膿漏の予防には日々の歯磨きが欠かせません。しかし、身体障がいや知的障がいをお持ちの方、脳卒中などの病気の後遺症をお持ちの方、認知症の方などで、歯ブラシがうまく動かせなかったり、歯磨きに協力的でなかったりといった理由で、家庭で十分にお口のケアを行うことができない方もおられます。そのような方は、定期的に歯科を訪れて、専門家による徹底的な口腔清掃を行うことが重要です。もちろん、ご自分できれいに磨ける方でも、6ヶ月に1回程度はプロによるお口のクリーニングを受けることをお勧めします。定期健診では、むし歯や歯槽膿漏を早期発見・早期治療を行うことよりも、むしろ、むし歯や歯槽膿漏にならないように予防的な処置を行うことが重要です。当センター障がい者歯科でも、完全予約制で、むし歯や歯槽膿漏の予防を中心とした定期健診を行っています。
定期健診は、できるだけ低年齢より継続して受けることが効果的です。当センター障がい者歯科を継続的に受診している、自閉症や知的障害をお持ちの患者様を対象に調べた結果から、幼児期や小学生の頃から続けて定期健診に通っている患者様は、大人になってもむし歯ができにくく、また、むし歯ができても重症化しにくいことがわかっています。大きなむし歯の治療は時間がかかり、また、治療に痛みを伴うこともありますので、結局、患者様本人に負担をおかけすることとなります。できることなら、むし歯ができる前から定期的に歯科を訪れて、健康な歯に育てていくことが理想的です。(障がい者歯科)
- 歯の外傷
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転倒、転落時に顔をぶつけた場合、歯の外傷(けが)を起こすことがあります。特に障がいをお持ちの方は歯の外傷を起こしやすいです。たとえば、車椅子の方あるいはてんかん発作をお持ちの方の転倒、自閉症の方の他動のための衝突や高所からの転落などがあげられます。ここでは、歯科受診前に家庭で行う、歯の外傷の際の対処法について簡単にご説明します。
1.歯の位置が変わった、または、歯が動く
ご自分でもとに戻そうとせずに、歯にはさわらないでできるだけ早く歯科を受診しましょう。2.歯が完全に抜けてしまった
抜けた歯がもとに戻せる場合があります。以下のことに気をつけて歯科まで持参してください。
1) 砂などがついている場合は軽く水で流してください。
2) 手近にあれば生理食塩水、なければ牛乳、イオン飲料に入れて持参してください。水道水の使用は避けましょう。できるだけ歯を乾燥させないように注意してください。 3) 歯の根の部分には絶対に触れないでください。 4) 抜けてから長時間経過すると、歯は戻せなくなります。できるだけ早く歯科を受診しましょう 。3.歯が欠けてしまった
歯の神経が細菌感染し、痛みがでる可能性がありますので、できるだけ早く歯科を受診してください。また、歯のかけらをもとに戻せる場合があります。もし、歯のかけらが見つかれば、歯が抜けた場合と同様に保存して持参してください。詳しくは、当センター障がい者歯科のホームページをご覧ください(https://www.gh.opho.jp/org/disabl/index.html)。
検査・放射線治療
- 放射線治療編
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1. 定位照射 いわゆるピンポイント治療のことです。通常は数センチまでの腫瘍がターゲットとなります。従来は頭蓋内腫瘍(主に脳腫瘍)だけに施行されていましたが、通常の放射線治療装置を用いて肺癌や肝臓癌に対しても行われるようになっています。ただし、肺癌や肝臓癌は早期の腫瘍(他に転移病変がない)が適応になります。
2. 強度変調放射線治療(IMRT) 強度変調放射線治療は放射線を病巣の形に切り取った中に、さらに放射線に強弱をつけることが可能で、従来よりも病巣の形に適した照射ができます。これにより、病巣には強い放射線を当てながら、すぐ近くの正常臓器は放射線量を抑えることができます。強度変調放射線治療を用いれば、これまで放射線治療の対象とならなかった部位のがんに対しても積極的な治療に望むことができます。保険適応は限局性がんということになっています。
3. 画像誘導放射線治療(IGRT) 従来の放射線治療は治療部位の近くの皮膚などに書き込んだマークを用いて、治療中の位置合わせを行います。これは表面の印だけを頼りに行う放射線治療で、身体の内部の様子や、身体の正確な位置の把握は困難です。画像誘導放射線治療とは、レントゲンやCTなどの画像情報を用いて、位置を正確に確認して放射線治療を行う方法です。この方法を用いれば簡易的な固定で定位照射、強度変調放射線治療が可能になります。固定するための痛みからは解放され、痛みを伴わずに治療が受けられる様になります。
4. 密封小線源治療 金属のカプセルに密封された、放射線を出す小さな線源を用いて治療する方法です。最近主に用いられる線源の大きさは、直径1mm未満、長さ5mm未満の非常に小さなものです。線源にはいろいろと強さがあり、時間がたてば減衰して放射能は減ります。強い線源の場合は一時的に使用し、弱い線源であれば患部に永久に埋め込んで使用することもあります。
5. 前立腺癌シード治療(図) ヨード125という放射性同位元素を封入した線源を、前立腺の中に埋め込んで治療します。一度埋め込まれた線源は取り出せません。埋め込む線源の個数は前立腺の大きさ、投与する放射線の量に依存します。手術自体は2~3時間で終了します。限局性前立腺癌が適応になりますが、その他に癌の悪性度やPSA(前立腺特異抗原)の値により適応が決まります。外から放射線を当てる治療は約6-8週間かかりますが、このシード埋め込みの治療では入院期間は1週間かかりません。短期間に治療を受けたい方には有利ですが、適応が限られることがありますので、詳しくは主治医にお尋ね下さい。
図
- ペースメーカ
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ペースメーカとは、心臓に電気刺激を加えることで拍動させる高度医療機器です。ペースメーカが適応となる病気は、徐脈といって心臓の脈拍が遅くなるような不整脈です。代表的な徐脈性不整脈としては、洞不全症候群や房室ブロックなどが挙げられます。このような病気では、脈拍数の低下により一時的に意識を失ったり、意識がもうろうとする状態が起こります。こうした危険な状態を改善するために、ペースメーカ治療は行われます。
ペースメーカの構成は電気回路と電池を組み込んだ本体部分と、心臓に留置されて電気刺激を伝えるリード線からなります(図1)。本体部分の大きさは約4×4×0.5cm、重量は約20gと以前に比べて非常に小型化されています。電池寿命は5~10年程度となっています。ペースメーカ植込み手術は、一般的に局所麻酔下で行われます。左右どちらかの鎖骨の下を切開して、鎖骨の下の静脈からリード線を心臓の適切な位置に留置します。そしてリード線と本体を接続した上で、皮下にペースメーカ本体を留置して手術は終了します(1~2時間程度)。現在、日本では年間4万人以上の方々が、ペースメーカ植込み手術を受けられています。
ペースメーカ植込み後は、外来にて年間数回のペースメーカチェックを行います。専用の機械(図2)を用いて電池残量確認、リード線の異常の有無、適正な設定への変更などを行います。当センターでは、こうしたチェックを医師と共同して臨床工学技士が行っています。現在、ペースメーカが植込まれた患者様の負担軽減や医療の質向上を目的として、電話線とインターネットを利用した遠隔でのペースメーカチェックも導入されつつあります。(臨床検査科)
図1 ペースメーカ本体とリード線
図2 ペースメーカプログラマー - 人工心肺
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<strong人工心肺とは?>
心臓の役割は酸素の多く含んだ血液を全身に送る届ける体循環と、全身の組織で消費され酸素の少なくなった血液を肺に送り酸素化する肺循環を行っており、休みなく機能しています。
心臓弁膜症、大動脈瘤などで、手術する場所が心臓やその周囲になる場合、一時的に心臓の動きを止めなくては手術が出来ません。しかし、その間も、全身の臓器に酸素の含んだ血液を送る必要があり、心臓を止めても安全に手術が出来るように、心臓と肺の機能の代わりをするものが人工心肺です。
図のように手術中は、患者さんの大静脈から血液を脱血し、その血液を人工肺で酸素を与えて大動脈に送ります。また、心臓の筋肉を栄養している血管(冠動脈)に、心臓の拍動を安全に止めることが出来る薬剤(心筋保護液)を注入し、心臓を一時的に止めます。このように、人工心肺を使用すると、心臓や、心臓周囲の血管の手術が安全に行うことが出来ます。
これら、人工心肺を操作しているのが臨床工学技士で、人工心肺操作中は血圧、体温、血液検査のデータなど、多くの情報から運転条件を変化させ患者様の体を守ります。人工心肺装置以外にも手術に必要な装置、自己血回収装置、冷温水槽、などさまざまな医療機器の操作も行い、円滑な手術の進行をサポートしています。(臨床検査科) - 血液透析
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血液透析とは
腎臓の機能が低下すると老廃物(体のゴミ、不要なもの)や余分な水分がたまります。これらを取り除く治療法が血液透析です。人工透析の目的
血液を人工腎臓(ダイアライザ)に循環させ、身体に溜まった老廃物や余分な水分を除去し、電解質のバランスを調整します。人工透析の条件
十分な効果(透析効率)を得るためには、身体に適した透析条件が必要です。例えば、血流量を毎分約200mL、1回の透析時間を4~5時間 等。人工腎臓(ダイアライザ)
透析膜には色々な種類(ポリスルホン、セルロース、トリアセテート等)やサイズがあります。患者様に適したダイアライザを選択します。
ダイアライザに透析液が流れ、血液が透析膜を介して透析液に接することで、老廃物の除去、電解質の調整をおこないます。
水分はダイアライザにかかる圧力を調整して除去します。透析液
透析液は、毎分400~500mlの流量が必要です。そのため大量に透析液を流せる、透析液供給装置が必要です。
透析液は、原液(当院は粉末)を逆浸透装置(海水から純水を作れる装置)などで作製した水(透析用水)で希釈し、各透析装置に供給しています。透析液から血液に透析膜を介して発熱物質などが体内に入る可能性があるため、臨床工学技士が日々透析液の清浄化に努めています。(臨床検査科)
血液回路 透析装置 - 検査の豆知識
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CT検査について
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詳しくは、こちらをご覧下さい。→ https://www.gh.opho.jp/org/gashin/ivr.html医療被ばくについて
詳しくは、こちらをご覧下さい。→ https://www.gh.opho.jp/org/gashin/qanda.html#Q1造影剤について
詳しくは、こちらをご覧下さい。→ https://www.gh.opho.jp/org/gashin/zoueizai.html妊娠中・授乳中の検査について
詳しくは、こちらをご覧下さい。→ https://www.gh.opho.jp/org/gashin/qanda.html#Q7